「指定国立大」に東北大・東大・京大を選定、その理由は?

産学連携、インスティテューショナルリサーチ、総括副学長制など

 文部科学省は2017年度からの新制度「指定国立大学」で東北大学、東京大学、京都大学の3大学を指定した。世界最高水準の教育・研究・社会貢献を目指す大学として、財務基盤と人材多様性などの先進的な構想が評価された。文科省は学長の裁量経費的に使える初年度予算計10億円で支援する。

 指定国立大は研究、社会連携、国際化すべてが国内トップレベルの7大学が申請していた。このうち東京工業大学、一橋大学、名古屋大学、大阪大学は「指定候補」となり、各大学が構想を再度練り上げ、17年度末をめどに再審査可能とした。

 今回指定された3大学は、改革構想と同時に土地や資産運用、学生の定員管理などで規制緩和を希望。省令改正などによる実現に向けて文科省と議論する。

 指定を受けた3大学の特徴として、例えば東北大・青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)が産学連携のイノベーション拠点であることが注目された。材料、スピントロニクス、未来型医療に加え、災害科学研究は世界的に価値が高い。

 東大は日本のシンクタンクとしての機能や世界的課題に挑戦する意識で存在感がある。データを使い大学運営の調査分析をする「インスティテューショナルリサーチ」機能も本格化している。

 京大は総括副学長(プロボスト)制が目を引いた。学長が資金獲得など渉外を担当、プロボストが学内運営を率いる米国大学スタイルだ。研究では人文社会科学の卓越性が期待されている。

日刊工業新聞2017年7月3日



高いハードル、北大も九大も断念


  世界最高水準の研究・教育・社会連携を実現する文部科学省の「指定国立大学法人」制度で、指定を目指して東京大学や京都大学など7大学が応募した。どこが選ばれ、指定によって可能になる規制緩和を活用し、改革をどう進めるのか―。各大学の戦略は秘中の秘だが、ポイントの一つは産学連携といわれる。応募大学の最新事例から、世界トップクラスの大学と社会のこれからのつながりを推し量る。

 今夏に数大学が決まる指定国立大に選ばれれば、その狭き門を通った大学のブランド価値は確固たるものになる。しかし助成金を誘引に細かな指示を国が出す従来の事業と異なり、今回の公募要項は極めてシンプルだったため、対応に右往左往する大学が目立った。

 白紙に絵を描くような自由な提案が求められる一方、「研究」「社会連携」「国際」の全項目で国内10位以内という高いハードルが示された。

 その結果、旧7帝大のうち北海道大学と九州大学は応募断念に追い込まれた。「旧7帝大という言葉はもう使われなくなるのでは」と応募大学の幹部の1人は顧みる。

 前哨戦を勝ち抜いた7大学のうち、だれもが“当確”と予想するのは、全方位で強い東大と京大だ。さらに収益における外部資金比率の高さなどで、しばしば“別格”とみなされるのが、2大学に加え大阪大学と東北大学の4大学だ。

 これを、中京地域の連携が抜群の名古屋大学、理工系単科の東京工業大学、今回唯一の文系大である一橋大学が、指定を求めて追いかけている様相だ。
             

「自立経営をここで徹底してほしい」


 指定のメリットで活用されそうなのは、研究成果を活用する企業への出資が可能になる点だ。技術を核にした大学発ベンチャー(VB)への出資は、ベンチャーキャピタルを通した形により、全国立大で認められている。

 これに対し、今回は文系を中心としたコンサルティングや研修、教材販売などが対象となる。例えば東大は、週2回、半年で570万円という「東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」を運営しており、これを事業子会社化するといった形が想定される。

 ほかに寄付金を原資とする金融商品での資金運用や職員の高給設定も、指定によって他の国立大より自由度が高まるものの、実はこれは大きな差とならない。重要なのはこれらを活用し、世界で戦える大学へと転換する独自プランの中身だ。

 「運営費交付金が厳しい中で海外資金を獲得するなど、国立大学法人化で掲げた自立経営をここで徹底してほしい」(文科省・高等教育局)。指定の獲得は、世界競争に向けた日本の改革先導に向けたものなのだ。

 公募要領には2016年末に文科省がまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を踏まえることが明記された。政府と経済界で合意した「企業から大学などへの投資を3倍に引き上げる」ことが念頭にある。

 経団連の吉村隆産業技術本部長は、「意欲と能力のある大学には、指定を受けることで潜在力を最大限発揮してほしい」とコメントする。

世界と戦う先例づくり


 経団連は東大と連携し、16年秋に「東大・経団連ベンチャー協創会議」を発足させた。東大が主導する試みだが、産学共同研究の休眠特許をVB起業で復活させたり、VB技術を大手各社が活用したりする活動は、全国の大学への波及が期待できるものだ。

 モデルの一つは東大の技術で生まれた小型衛星VB、アクセルスペース(東京都中央区)だ。衛星画像の活用は気象サービスに限らず農業、建設、プラントなど多方面に広がる。

 宇宙産業の発展は経団連の重要テーマでもある。同社は衛星50機の整備に向け、必要とする200億円の確保を計画する。東大産学協創推進本部の各務茂夫イノベーション推進部長は、「大企業への営業にVBとともに出向く」ことも大学の役割だとする。

 一方、部局の力が強い東北大では、国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES=シーズ)が全学をリードする。先進エレクトロニクス技術をIT、自動車技術と融合するなど、企業単独では難しい新事業の創出に向け、連携する企業は約60社に及ぶ。

 また、産学共同研究に参加する博士課程学生に対し、企業資金を元手に最大月25万円を支援する制度を始めた。博士学生は大手企業のベテラン研究者から直接研究指導を受け、若手研究者とともに地元の協力会社での事業化を議論する。

 高度な研究と教育の両輪がここでは回る。「固定費削減のため、中央研究所の研究や若手育成を外部委託する企業の勢いは止まらない。企業は自社に有益なところに資金を出す」。同センターの遠藤哲郎センター長は自信をみせる。

 これに対し、研究人材の流動化で新パターンを実践したのは阪大だ。産学両方を本務とする「クロスアポイントメント制度」で4月から、工学研究科の教授のコマツへの派遣を始めた。

 同時期にダイキン工業からは、研究職の女性社員を助教として迎えた。全国的には男性シニアの企業人が大学に来る一方の中で、阪大は意識的に実行したとみられる。

 世界と戦うために自ら先例を作りだし、同時に日本の大学改革をリードする―。これこそが、指定を目指す大学に求められているものに違いない。
           

(文=山本佳世子)

日刊工業新聞2017年5月4日

明 豊

明 豊
07月03日
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2017年度開始の指定国立大学法人制度は、世界最高水準の研究や社会連携を手がける国立大を指定し、特別な規制緩和をする仕組み。世界トップレベルの成果を挙げることを目指す理化学研究所など三つの「特定国立研究開発法人」と対をなすような国立大を選んだ。指定を得ると、大学の研究成果を事業化する会社への出資や、研究者の高給設定などが可能になるが、「明確なメリットがわからない」(応募大学の役員)との声は強い。規制緩和の動向などを注視したい。

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