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停滞する“世界のHONDA”、ブレークする秘密は中国にあり!

「兄弟車戦略」躍進の原動力
停滞する“世界のHONDA”、ブレークする秘密は中国にあり!

にぎわいを見せる深センの販売店

 ホンダが世界最大の自動車市場の中国で快走を続けている。2016年に新車販売台数が4年連続で過去最高を更新し、足元でも単月販売台数の前年同月比は17年5月まで5カ月連続で増加。一方、中国市場では地場メーカーも技術力を付けており、競争は激化している。また環境規制対応の必要性も急激に高まっている。中国事業で成長速度の一層の加速を図るホンダの課題と戦略を追った。

 「ここに来て、自分達の思い描いた成長を遂げられるようになってきた」。ホンダの八郷隆弘社長は中国事業の成長に目を細める。

 ホンダは中国で現地メーカーの広州汽車、東風汽車とそれぞれ合弁の広汽ホンダ、東風ホンダを持ち、生産・販売事業を展開する。

 現地の自動車需要が拡大する中で、合弁2社を持つ優位性を生かした商品戦略が奏功し、12―16年の4年間で年間販売台数は倍増した。

 躍進を支えるのが、同じベースの車種でテイストの異なる外観や内装を採用した商品を合弁2社で投入する「兄弟車戦略」だ。従来は新車を販売開始する際に合弁2社の間でのシェアの奪い合いを避けるため、どちらかの会社で発売する必要があった。

 だが、14年に発売する小型スポーツ多目的車(SUV)の「ヴェゼル」は合弁2社の双方から出すことを決めた。ヴェゼルは欧米や日本でも販売するグローバルモデル。

 都市部に合う調和の取れたデザインが特長で、同年10月に広汽ホンダから発売したのに続き、同年11月に東風ホンダからヴェゼルをベースとして外観にアウトドアの要素を取り入れた「XR―V」を投入した。

 その結果、ニーズが異なる顧客を獲得できたことに加え、同一ベースの車種による開発の効率化といった利点も得られた。ヴェゼルを皮切りに兄弟車戦略を加速し、現在では小型セダン「シティ」、ミニバン「オデッセイ」、中国向け大型SUV「アヴァンシア」まで広げている。

 兄弟車戦略などの展開により、グローバルモデルに加えて現地に最適な中国専用車を効率的に拡充できたことで、同社の事業基盤はより厚みを増している。

 水野泰秀執行役員中国本部長は「従来は中国に適した車が出せないジレンマがあったが、今は現地で開発・生産した車が中国のニーズにミートしている」と自信を示す。

 市場の競争を勝ち抜く上で、こうした現地ニーズに適した商品構成は大きな武器となる。今後は「現在のラインアップのフルモデルチェンジなどを進めつつ、NEV(新エネルギー車)法に適合した車種を出していく」(水野執行役員)方針。環境規制対応も見据えつつ、商品力の底上げを図る。
                 

販売網、質・量追求で差別化


 セダン「アコード」や小型スポーツ多目的車(SUV)「ヴェゼル」など7車種を生産・販売する広汽ホンダ(広州市)。同社の深セン市内の販売店「広汽本田深セン興業店」では、週末になると朝から新車を求める中国人客で店内は大にぎわいとなる。

 「納入後すぐに売れてしまうので、今は展示車まで販売している状況だ」。羅沢練店長は店の盛況ぶりにほほを緩める。

 同店舗は深セン市内に9店舗ある広汽ホンダの販売店の一つで、2004年に開業した。広汽ホンダが商品群を拡充し、若者にも人気の車種が増えたことに加え、店舗でのアフターサービス体制やインターネットを通じた販売戦略により、順調に販売台数を伸ばしている。

 また16年6月には店舗の改装を実施。外観などを刷新したほか、修理待ちスペースには映画鑑賞部屋を設けたり、作業工程を把握できる電子看板を導入するなど設備を充実させた。これにより改装後は「顧客満足度が高まり、来店客数が20%増えた」(羅店長)という。

 今後はスマートフォンでも修理中の工程を把握できるサービスなども追加する予定。同店舗の販売実績は16年が前年比1割増の1983台で、17年は3000台以上を見込む。

 中国市場をさらに深耕する上で、いかに販売網を広げつつ競争力を高めていくかがカギとなる。広汽ホンダは既に中国国内に約480店舗を持つ。広汽ホンダの柳沢利幸営業部長は「今後は競争環境の変化を見据えて、販売店の量だけでなく質を高める必要がある」と強調する。

 そこで15年に店舗の外観や内装に新たな基準を定め、店舗網の改装に着手した。自社のブランド力を高めることで店舗に顧客を誘致し、販売につなげる狙いがある。年間100店舗強のペースで改装を実施しており、18年までにすべて終える予定だ。

 現地のもう一つの合弁会社である東風ホンダ(武漢市)でも、18年までに改装対象の約300店舗を改装する。また「まだ沿岸部で店舗が足りない地域があるので、まずはそこを攻め、その後は内陸部でも販売網を充実させる」(東風ホンダの清水光太郎営業部長)方針だ。

 販売の質と量を追求することにより、ホンダブランドのイメージを高め、現地の競争を勝ち抜く構えだ。
               

八郷隆弘社長インタビュー


 ―2017年は中国で134万台の販売を計画していますが、18年以降の目指すべき姿は。
 「武漢市に建設中の新工場が19年に稼働するまでは、既存体制で着実に生産、販売することが重要。また、むやみに販売台数を追っても生産と販売の質が悪化しかねないので、今の規模を維持しながらより競争力のある商品を作っていく」

 ―中国市場はどう見通していますか。
 「短期的には税制面などで多少難しい部分が出てくるだろう。ただ、長期的には内陸部の需要拡大などを背景にまだまだ伸びると見ている」

 「当社としては16年10月と17年3月に投入した大型スポーツ多目的車(SUV)の『アヴァンシア』と『UR―V』も足元で好調なので、全体の販売台数で前年割れしないようにする」

 ―今後も中国事業の成長を持続する上で、どのような点を重視しますか。
 「一つは、現地の合弁会社2社を通じホンダブランドで効率良く魅力ある商品を開発していくことだ。商品のイメージとして広汽ホンダは“高級”、東風ホンダは“スポーティー”と、両社で性格分けしながら同じプラットフォームを使い展開することが柱となる」

 「一方、価格面や現地サプライヤーの選択はホンダブランドではチャレンジできない部分だ。それについては合弁会社のブランドが担う役割で、今後どう伸ばしていくかが重要となる」

 ―18年に中国で電気自動車(EV)を発売します。
 「現在、現地の合弁会社と研究所が共同で開発中だ。顧客が乗ってすぐにホンダとわかるようなスポーティーなEVにしたい」

 「EVは、走行距離は電池、出力はモーターでほぼ決まるため、あとはコントロールの仕方が一つのカギになると考えている。その点で、我々の強みである制御技術を生かしたEVを開発する。またモーターや電池のパッケージングのやり方もコア技術の一つだ」

 ―自動運転技術の開発などでオープンイノベーションに力を入れています。中国で期待できる分野は。
 「コネクテッドとシェアリングの分野だ。中国独自の取り組みとして、我々と合弁会社とでオープンイノベーションを進めながら取り組むことになるだろう」

 「またAI技術は中国でも進んでおり、国が研究機関などに投資し、人材も豊富だ。オープンイノベーションの窓口となるような機能を中国にも設立することも検討する」
八郷社長

【記者の目】
 ホンダは2030年に世界販売台数の3分の2を電動車両とし、その内の15%をEVと燃料電池車(FCV)が占める計画。八郷社長は中国市場を「電動化に向けて北米と同じ重要度がある」と位置付ける。18年に投入するEVで、いかに“ホンダらしさ”を発揮してシェアを広げられるか。中国のEV事業は、電動化戦略を推進する上で重要な試金石となる。
(土井俊)

2017/6/19/20//23
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
あっという間にHondaは万年3位の遅れから日系トップの地位を確立した。その原動力にあった、開発、生産、販売 の一環した取り組みを理解できる詳細なシリーズである。中でも、姉妹車戦略による開発、販売効率の引き上げとそれを実施するスピード感に大きな成功体験があったといえる。停滞する世界のHONDAをブレークする秘密が中国の成功にありそうだ。

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