英マンチェスター大発ベンチャー、ナノ材料で日本市場開拓へ

光電子ナノ材料のクロミション、グラフェンのヴェルサリエン

 マンチェスター大学は英国でも有数の研究開発型大学で、とくに材料研究に定評がある。このほど同大学の材料技術をベースにしたクロミション、ヴェルサリエンというベンチャー企業2社の代表が来日。事業パートナーとなる日本企業を募集するとともに、光電子工学に基づくナノ材料や、グラフェンといった自社技術をアピールした。

発光性ポリマー粒子や水溶性の半導体インクなど


 クロミション(Chromition)は、マンチェスター大の研究員だったマーク・マカーンCEOと、同大のマイク・ターナー教授の技術をもとに2014年に創業。さまざまな機能を持つ3種類のナノ材料に特色がある。

 まず、青・緑・赤色を発する発光性ポリマーナノ粒子の「ルミスフィア」。バイオイメージング分野でがん組織に色をつけて検知するのに活用できるほか、偽造防止や照明デバイスへの応用が見込まれている。

 「エレクスフィア」は室温で水溶性インクとして使える半導体ポリマーナノ粒子。紙やプラスチックなどさまざまな材料に加工できる。空気中で基板上に半導体ポリマーの溶液を塗布し、アニーリング(焼きなまし)することで印刷方式による太陽電池なども作製できるという。

 さらに、高い誘電特性を持つ「ダイエレクスフィア」は、1ボルト以下の低電力で動作する次世代モバイル機器や低電力センサーなどのリジッド基板、フレキシブル基板、高誘電性基板の印刷に利用される。

 マカーンCEOはパートナー企業と連携することで、「ルミスフィアでは量産体制を整え、エレクスフィアでは応用用途を開拓したい」と話す。

同大発ノーベル賞のグラフェンで製造特許


 一方、マンチェスター大といえば、高い機械強度と電気伝導性を持つ2次元炭素ナノ材料のグラフェンでも有名。グラフェンを初めて作製した功績により、同大のアンドレ・ガイム教授とコンスタンチン・ノボセロフ教授が2010年にノーベル物理学賞を受賞した。2010年設立で同大発のヴェルサリエン(Versarien)は、このグラフェンの有力サプライヤーだ。

 同社は、グラフェンが積層したグラファイト(黒鉛)を機械的および化学的に1層ずつ剥離する方式でそれぞれ特許を持つ。

 製品は大きく分けて2種類あり、マンチェスター大で開発された技術はグラフェンのパウダー。「サイズが大きく、他の素材と混ぜて使う。品質では世界一だと思っている」と同社のネイル・リケッツCEOは胸を張る。
ヴェルサリエンのネイル・リケッツCEO

 例えば、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)素材にグラフェンを3%混ぜ込むと強度が26%向上。カーボンファイバーでも55%強度が上がった。

 シリコーンやラテックス、ナイロン、ポリプロピレンなどに混入すれば製品の小型軽量化に役立てられるほか、バッテリーの電極に混ぜることで電池寿命も延ばせるとしている。

また、ケンブリッジ大からの技術をもとにグラフェンのインクも商品化。その高い電導性を生かし、印刷で電子回路を作るプリンテッド・エレクトロニクス向けに供給している。

 印刷面が曲がると抵抗が変化することから、センサーにも応用可能。製品化に向け、大手印刷会社と協業しているという。

世界最軽量の機械式腕時計は1億8000万円!


 ただ、普及のうえでハードルとなるのがグラフェンの値段の高さ。同CEOによれば、1グラム当たり400ポンド(約5万6000円)もする。

 スイス・ジュネーブで1月に開催された国際時計見本市のSIHH(ジュネーブサロン)では、マンチェスター大も製作に協力し、グラフェンによる複合素材を本体に採用した機械式腕時計が公開された。
グラフェンを採用した世界最軽量の機械式腕時計(マンチェスター大学の発表資料から)

 重量は40グラムしかなく、世界最軽量。それに対し、値段は一品物ということもあり、130万ドル(約1億8000万円)もする。

 とはいえ、グラフェンの価格動向についてリケッツCEOは楽観的。「2025年にはグラフェンの需要が5万4000トン程度に拡大すると言われている。量産が進めば、価格は原材料である黒鉛の価格に近付いていく」と見ている。

2017年6月20日付日刊工業新聞電子版
グラフェンを採用した世界最軽量の機械式腕時計のニュース

藤元 正

藤元 正
06月23日
この記事のファシリテーター

実は10年近く前にやはりマンチェスター大からスピンアウトしたナノコ・テクノロジーズ(Nanoco Technologies)という会社を取材したことがある。経年劣化が少なくクリアな色合いを持つ半導体発光ナノ材料の「量子ドット」で重金属のカドミウムを含まないタイプを実用化し、TVディスプレーや照明向けに供給している。「日本でも生産したい」と当時のCEOは言っていたが、市場開拓があまり進まず、結局は韓国に工場を作ったという話をその後、関係者から聞いた。確認はしていないが、韓国企業が売り出したハイダイナミックレンジ(HDR)の量子ドットテレビは、もしかすると同社の量子ドットを使っているのかもしれない。

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