WDの「東芝メモリ」売却差し止めは認められるのか?専門家の見方はさまざま

「手続きをいったん停止」、「棄却される」

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却で、協業先の米ウエスタンデジタル(WD)が入札を揺さぶる一手を繰り出した。東芝メモリの売却について、米国の裁判所に暫定差し止めを申し立てた。国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所への手続きの差し止め申し立ての追加措置となる。東芝は月内に売却先を決める方針だが、WDの強硬な姿勢により事態は泥沼化している。

 WDは国際仲裁裁判所の判断が出るまでの差し止めを請求した。裁判手続きに詳しい専門家によれば、提訴から早ければ1―2週間で判決が出る見通しだ。東芝は「訴状を受け取っていないのでコメントは差し控えるがメモリー事業の売却先は6月後半までに決定し、28日までに正式締結する方向で進めている」と売却手続きに変更はないと強調した。

 WDと東芝はNAND型フラッシュメモリーを生産する四日市工場(三重県四日市市)の運営に関連し、三つの合弁会社を設立している。WDは全ての合弁会社の売却について「東芝は一方的に契約に違反しており、さらなる措置を講じる以外に選択肢がなくなった」と主張。同社のスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)は「最善となる解決策を求め続ける」との声明を発表した。

 WDは5月、東芝メモリの売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てた。東芝はこれを黙殺する形で売却先を決める入札手続きを進めてきた。仲裁裁の判断には数年かかるケースもある。

 このためWDは自らの関与が薄いままで売却手続きがこれ以上進まぬよう、米カリフォルニア州上級裁判所に暫定差し止めを訴えたもようだ。

 WDが米カリフォルニア州上級裁判所に申し立てた暫定差し止め請求は認められるのか。専門家の中にはさまざまな意見がある。

 仲裁裁に詳しい早川吉尚弁護士は「米国の司法は仲裁に協力的。東芝とWDのケースについても仲裁中であるだけに、WDの主張に沿って売却手続きをいったん停止させる可能性がある」と指摘する。

 一方、企業法務に詳しい安國忠彦弁護士は「同じ原告が、仲裁裁に対する訴えと似通った申し立てを行ったと認識している。こうしたケースは棄却されるのではないか」と話す。

 もともとWDは東芝との合弁会社の持ち分について、双方の合意なく第三者に譲渡できないとする契約を盾に売却に反対してきた。これに対し東芝は3日付で、東芝メモリに移した合弁会社の持ち分を東芝本体に戻した。

 現状では東芝メモリには合弁会社の持ち分は含まれておらず、ファンド関係者は「WDが売却に反対できる根拠自体がない」と指摘。入札関係者も合弁会社の持ち分を東芝に戻した措置は有効とみており、「(今回のWDの請求は)想定の範囲内。引き続き入札手続きを進める」と話す。

 一方、WDはいまだに東芝メモリに合弁会社の持ち分が残っているとの立場で、契約違反は解消されていないと主張している。また東芝は将来は合弁会社の持ち分を第三者に売ることが想定される。

 WDは、それを含めて一連の売却が完了するという「手続きの実態を訴えることで暫定差し止めの判断を促すのではないか」と早川弁護士は指摘する。

 WDによる暫定差し止め請求が認められても、東芝は異議申し立てを行える。また最終的に差し止めが決定されても、それを無視して売却手続きを進めることはできる。ただ、その場合、裁判所侮辱罪として制裁金を課せられるリスクがある。
                 

(文=後藤信之、渡辺光太)

日刊工業新聞2017年6月16日

後藤 信之

後藤 信之
06月16日
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入札で優位に立つため、いろいろな攻撃を仕掛けるWDだが、他の入札者が淡々と手続きを進めていることからも分かるように、どれも決め手に欠ける。実はWDは契約違反という自身の主張にそれほど自信がないのではないか。自信があれば、もっと早い段階で今回の暫定差し止め請求を申し立てたはず。仲裁裁判所には即判断を仰げるファストトラックという制度もあるが、それを利用する気配もない。今回、このタイミングで申し立てたのは、入札を揺さぶるための最後の一手のように見える。

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