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テスラとの提携解消は、トヨタ自ら「変革者」になる宣言か

「いつまでも『三河の鍛冶屋』でいいわけがない」 つながるクルマへ舵
テスラとの提携解消は、トヨタ自ら「変革者」になる宣言か

テスラのイーロン・マスクCEOと豊田章男社長

 トヨタ自動車が米テスラの保有株をすべて売却していたことが明らかになった。2010年に資本・業務提携して電気自動車のEVの共同開発を進めたてきたが、協業効果が発揮できたなったためとみられる。豊田章男社長は「現在の自動車産業はパラダイムシフトが求められている」とし、テスラや米ウーバー・テクノロジーズなどと手を組んできたが、彼らのような“ゲームチェンジャー”はもはやライバル。自ら成長戦略を描き始めた。

 「新興企業をしっかり見ていかないと見誤る」。自動運転車の開発が話題のIT大手のグーグル(担当は持ち株会社アルファベット子会社のウェイモ)、米アップル、配車サービスのウーバー・テクノロジーズ、電気自動車(EV)の米テスラ…。これら企業の社名が、トヨタ首脳の口から躊躇(ちゅうちょ)なく飛び出す。自動車業界に変革を促す新規参入組だ。

 「そういった企業が紹介されるときに、トヨタも触れられるようにしなければならない」(トヨタ首脳)。時価総額で米ゼネラルモーターズ(GM)を抜いたテスラとは、共同開発したEV仕様のスポーツ多目的車(SUV)「RAV4」を米国で発売した。ウーバーとも16年に資本・業務提携し、海外でライドシェア(乗り合い)関連の協業を進める。

 しかしウーバーが進めるライドシェアは自動車需要を減衰する恐れがあり、テスラが取り組むEVの普及はガソリン車市場を脅かしかねない。トヨタが変革者と同じ土俵で戦うには、組織の巨大化による構造的な問題と向き合わなければいけない。

 「いつまでも『三河の鍛冶屋』でいいわけがない。トヨタは移動サービスのプラットフォーマーにならなくてはいけない」。トヨタの友山茂樹専務役員の表現は過激だ。

 20年までに日米で販売するほぼすべての乗用車に車載通信機(DCM)を搭載。DCMが吸い上げた情報で基盤(プラットフォーム)を構築し、カーシェアやライドシェア(相乗り)、テレマティクス保険といった車を使ったあらゆるサービス事業者と提携する戦略を描く。

 つながる車にしても自動運転にしても、将来はクラウドに付加価値が移る可能性がある。携帯電話でも同じことが起きた」(友山専務役員)。車を作って売る事業モデルから、車を使った移動サービスにも収益源を広げる必要があるとの考えだ。

 「新プリウスPHVはコネクティッド戦略の先陣を切るクルマ」(友山専務役員)だ。今冬発売予定の新型プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」はほぼ全車にDCMを標準搭載し、通信料は3年間無料。

 スマホから車の充電確認やエアコン操作をできるようにするほか、走行情報などのビッグデータ(大量データ)を駆使して車の故障可能性を事前に知らせるサービスなども始める。

 昨年1月には米カリフォルニア州シリコンバレーに、人工知能(AI)研究・開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」を新設。同年12月にはEVの企画・開発を担当する社内ベンチャー組織「EV事業企画室」を発足させた。

 18年3月期は研究開発費1兆500億円と過去最大規模を計画する。豊田社長は「意志ある踊り場」「年輪的成長」と、将来に向けた基盤固めや着実に成長する会社の姿を表現してきた。巨大企業となり、以前のように大きく成長する局面ではなく足踏み状態。09年から始まった豊田社長体制において、今が最も難しい局面かもしれない。


日刊工業新聞2017年5月11日の記事を加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
テスラとウーバーと必ずしも同一でくくるものではないかもしれないが、テスラに比べてもトヨタはコネクティッド戦略で大きく遅れをとっている。コネクティッドカンパニーを昨年秋に立ち上げたが、既存ビジネスのしがらみを断ち切るのは容易ではない。「いいクルマ」づくりがユーザーの顧客体験につながると考えてきた豊田社長。そのUXはこれから大きく変わっていく。豊田社長も十分それを分かっていると思う発言や施策を打ってきていると感じるが、パラダイム転換という最も高いハードルをどう乗り越えるか。

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