残業しろは嫌だけど、残業するなも困る日本の本質

<情報工場 「読学」のススメ#32>なぜ、残業はなくならないのか


残業は仕事の繁閑に柔軟に対応する「合理的」システム


 常見さんは本書で、厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』に掲載された調査結果などを引きながら、残業の発生原因が、個々人の能力や工夫に関するものではなく、仕事のあり方や量によるものであることを指摘している。雇用者、被雇用者双方に残業が発生する原因を尋ねる質問への回答で、「業務量が多いため(人員が足りないため)」「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」「予定外の仕事が突発的に発生するため」といった、個人の努力ではいかんともしがたい理由が上位になっているというのだ。身につまされる人も多いのではないだろうか。

 さらに仕事の任せ方について、欧米では「仕事に人をつける」ジョブ型が多いのに対し、日本では「人に仕事をつける」メンバーシップ型が多数派であるとも言っている。これは、どちらが上ということではない。メンバーシップ型には、マルチタスク化、多能工化が進む、あるいは、多種の仕事をこなすことで多様な視点得られるといったメリットがある。ただ、後者ではどうしても仕事量が増え、残業を誘発しやすいのは確かだという。

 常見さんは、これらを踏まえ、今の日本企業にとって残業は「合理的」なものであると喝破する。残業は、人員を増減することなく仕事の繁閑に柔軟に対応する便利なシステムだというのだ。

 だが常見さんは、残業を肯定しているわけでは決してない。あくまで、合理的なシステムであること、個人の努力だけではどうにもならないことなどをしっかりと認識した上で議論すべきと言っている。では、どうすればいいのか。

トヨタ式「見える化」と「予約のとれない寿司屋」


 常見さんは「働き方改革実現会議」の議論は「改革」ではなく「改善」のレベルにすぎないと手厳しく批判。もっと踏み込んだ「業務量」「仕事の任せ方」についての検討の必要性を強調している。

 本書では、その上でいくつかの具体的な提案もなされている。二つ紹介しよう。
 一つは、トヨタ自動車の、かの有名な「トヨタ生産方式」を労働時間短縮に生かすというものだ。トヨタでは、徹底して「はかる」ことをしている。何でも細かく「はかる」ことで、数値化、「見える化」する。たとえばある作業をビデオで撮影してどの動きに何秒かかっているかを計測し、「3ムダラリ(ムリ、ムラ、ムダ)」がないかをチェック。その結果をもとに、実効性のある改善プランを立てていくのだ。

 もう一つは、常見さんが「予約のとれない寿司屋モデル」と呼ぶ方法。顧客にルールを提示し、仕事の絶対量ややり方を調整する、というものだ。例として、あるデザイン事務所では「仕事と家庭の両立」を理解してくれるクライアントとのみ仕事をしているのだそうだ。実際の仕事のプロセスではクライアントとのコミュニケーションを密にし、できる限り一発OKが出るように仕事をしている。受注ルールを明確にすることで、仕事のやり方を調整し、アウトプットの質を上げるのにも成功しているケースだ。

 トヨタのように徹底した管理をするか、「寿司屋モデル」のように顧客に協力してもらうか。業種や職種、企業の状況や体力などによって、どちらを選ぶかは変わってくるだろう。残業時間上限などを画一的にルール化するのではなく、まずは自社や自身の状況や事情、能力を把握し、それぞれに合った対策を考えていくべきではないだろうか。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『なぜ、残業はなくならないのか』
常見 陽平 著
祥伝社(祥伝社新書)
256p 800円(税別)

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冨岡 桂子

冨岡 桂子
06月04日
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 トヨタのような徹底した管理をするにしても、「寿司屋モデル」にしても、どちらもうまくいくかの保証はない。思い切った施策を取ると、その裏側にはうまくいかない場合のリスクももちろんある。業績への影響が良いならいいが、そうとも限らない。「働き方改革」は現場レベルにとりあえず考えさせてお茶を濁すのではなく、経営者がリスクも取って行うと決意しなければ、本当に実現させるのはなかなか難しいところもありそうだ。

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