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エアバスの未来の機体作りはこれだ!VRや3Dプリントにクローラーロボット

インクジェットプリンターで塗装も~イノベーションデイズ2015(前編)
エアバスの未来の機体作りはこれだ!VRや3Dプリントにクローラーロボット

機体製造の未来を描いたビデオでは機体の塗装にはインクジェットプリンターを使用(エアバスの資料から)

 A320ファミリーを2018年に月産60機へ増産を検討しているエアバス。現在の月産42機を2017年1-3月期に50機へ引き上げ、さらなる増産により、受注の増加に対応していく。

 現地時間5月28日に仏トゥールーズで開かれた報道関係者向けイベントでは、ジョン・リーヒー顧客担当COO(最高業務責任者)らによるA320の月産60機へ向けた言及のほか、同社の各機種の現状や増産に向けた取り組みなどの説明があった。

 また、会場で上映された未来の機体工場を描いたビデオでは、ヴァーチャル・リアリティー(VR、仮想現実)の活用や、機体塗装にインクジェットプリンターを用いるプランも紹介された。

 前編と後編の2回に分け、同イベントを取り上げる。前編では、エアバスのマーケットシェアの変化や、増産への取り組み、大型輸送機「ベルーガ」の後継機「ベルーガXL」の現状をまとめた。

 A320neoが好調
 現在、100席以上の旅客機を製造するメーカーは、欧州のエアバスと米国のボーイングの2社に事実上集約された。カナダのボンバルディアなど、150席前後の機体を製造するメーカーもあるが、500席以上の超大型機までをフルラインナップで扱っているのは、エアバスとボーイングだけだ。

 両社のキャンセルを差し引いた純受注のシェアを見ると、1995年にボーイングが82%、エアバスが18%だったのに対し、2015年は4月末時点でエアバスが209機で62%、ボーイングは128機で38%と、20年間で変化した。1990年代末からは、ともに50%前後のシェアで拮抗しているが、2013年から年間の純受注はエアバスがボーイングを上回っている。

 こうした受注状況を受け、4月末の受注残もA320が1350機、A320neoが3794機、A330が319機、A350 XWBが778機、A380が158機の計6399機にのぼり、業界記録を更新している。メーカー別受注残は、エアバスが53%、ボーイングが47%と好調であることを、リーヒー氏は強調した。

 今年1月から4月末までの単通路機の純受注状況は、A320が174機、ボーイングの737は66機。受注比率はA320neoの73%に対し、737は27%となっている。

 また、機体を引き渡した地域の変化にも触れた。10年前の2005年は、北米と欧州、CIS諸国が62%、新興国などその他の地域が38%で、欧米主体のビジネスであった。これが2014年には北米と欧州CISが42%、その他が58%と半数以上を占めている。引き渡し機数も2005年の378機から2倍近い629機に増えた。

 VRや3Dプリントを増産に活用

 エアバスをはじめ機体メーカーでは、今後20年間に航空需要は大幅な伸びを示すとの予測を打ち出している。受注残の増加に対応するため、エアバスは米アラバマ州モービルにA320ファミリーの4番目となる最終組立工場を建設中。2018年には月産60機体制の確立を目指す。同年に737の生産レートを52機に引き上げるボーイングを、引き離したい考えだ。

 エアバスは増産に向けて技術検証を進めており、ヴァーチャル・リアリティーや3D(三次元)プリント技術も取り入れていく。トム・ウィリアムスCOO(最高業務責任者)は、工場にヴァーチャル・リアリティー技術を応用したメガネの導入を一例として挙げ、品質改善に有効だと語った。

 A320の主翼組立については、従来の治具を使った手動組立から、半自動化を進めていく。A350は穴開け加工の改善や3Dプリント技術の導入などを進める。エアバスでは、サプライチェーン管理の向上や調達先の二重化などにより、増産を確実なものにするという。

 会場では、未来の工場を描いたビデオが上映された。製造工程の見直しや省力化を継続的に進めることで、納期短縮やコスト削減につなげていく。

 ビデオでは、工場内の部品輸送の無人・自動化や輸送タイミングの最適化、RFID(無線自動識別)タグを用いた部品管理にはじまり、空調用ライザーダクトをはじめから組み込んだ胴体、ブラケットを使わずに取り付けられる壁面パネル、胴体組立へのクローラーロボットの活用、人と共に働く「コボット」の人間が作業しにくい場所での利用、胴体結合の自動化、インクジェットプリンターによる胴体塗装などが描かれていた。

 ベルーガXLは輸送力30%増
 また、A350の増産に関連する動きとして、「ベルーガXL」と名付けられたエアバスのパーツ輸送を担う大型輸送機「ベルーガ」の後継機についても説明があった。

 2014年11月に計画が発表されたベルーガXLは、A330をベースに開発し、5機生産する。コンポーネントや機器は既存のものを再利用し、コックピットや貨物室などを新たに開発する。

 開発は2015年から2016年にかけて行われ、飛行試験を2019年までに終える。就航は2019年中ごろを予定。A300をベースとする既存機より輸送力を30%向上させ、A350の主翼を2つ同時に運べるようにする。機体断面は1メートル広くなり、ペイロード(有償搭載量)も12%増える。

 5機ある既存のベルーガは後継機と順次入れ替え、2025年までには退役する予定。

 次回の後編では、A330のエンジン換装型A330neoや、日本航空(JAL/JL、9201)も発注するA350 XWB、中東勢の発注が一巡し、日本では経営再建のスカイマーク(SKY/BC)のキャンセルで話題となったA380と各機種の現状を取り上げる。
吉川忠行
吉川忠行 Yoshikawa Tadayuki Aviation Wire 編集長
エアバスが各機種の現状などをプレゼンするイベントで、VRや3Dプリントなどの技術を活用すると説明。ベルーガの後継機ベルーガXLも話題に出ました。VRメガネを品質管理に応用する事例などが、機体工場の未来を描いたビデオの中で紹介されました。

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