ニュースイッチ

フライングとブランディングにこだわるシードVCの生き様

Skyland Venturesが日本のスタートアップシーンに風穴を開ける
 2012年設立から、主にシード期のスタートアップを支援してきたベンチャーキャピタル(VC)、Skyland Ventures。投資先としてはKAUMO、Smoozなどがある。オフィススペース#HiveShibuyaを提供、毎週水曜日の朝15分×10本のスピードミーティングなど、シードスタートアップ向けに様々な取り組みを行っている。ミッションと投資バリューの設定や、インキュベーションプログラム「WAVE」など、新たな施策を打ち出している同社CEOの木下慶彦氏(写真右)、アソシエイトの岡山佳孝氏(写真左)に最近の活動について話を聞いた。

Sansanの変身


―なぜ今のタイミングでミッション・バリューの制定をしたのですか?
木下 理由がいくつかあって、一つは「Sansan」の寺田親弘社長の影響です。Sansanは名刺管理サービスの会社なんですが、ホームページやCMが凄いコンセプチュアルで洗練されています。それはやっぱりブランディングにお金をかけているからですよね。Sansanっていう社名も昔は「三三」で、寺田社長もどこにでもいるサラリーマンみたいな風貌だったんですよ。それが今は物凄いコンセプチュアルでカッコイイ企業になっている。事業内容も「名刺のサービス」っていう点で面白いし、それに合わせてブランディングも洗練されている。

 寺田さんとSansanのそういう部分がとても好きで、僕たちもブランディングして他のVCと差別化を図ろうと決めました。コピーライトだけなら、それ程お金もかからないので。VCでそういうブランディングをしているところってあまりないじゃないですか。もう一つのきっかけは、岡山さんたちと話し合って、僕たちの本質的な部分、中心軸を決めていく必要があるなと再確認したことです。

―中心軸が決まっていなかったということでしょうか?
岡山 木下さんってとにかくコミュニケーションが下手なんですよ(笑)。言ってることがネガティブな方向に行きやすい。あとやってることも言ってることもコロコロ変わります。でも変わらないものも確実にある。そこを整理して固めれば、僕たち自身が動きやすくなるし、投資先にも僕たちのやりたいことが伝わりやすい。ただの上っ面の広報だけだと意味がないですから。

木下 投資というのは物凄く属人的で、誰がやるのかということが重要ですよね。「あの人のファンドなら」というように誰が投資しているかで見る目が180度変わってきます。そういう意味でもやはりVCにとってもブランディングは重要なんです。

―“変わらないもの”とは何でしょうか?
ミッション・バリュー

木下 Skyland Ventures設立の当初から、一貫して僕たちはシードスタートアップへの投資を行ってきました。日本を変えていく若い才能を発掘するという目標があるからです。これを、はっきりと『The Seed Maker.』というミッション、『フライングで投資する』などのバリューでメッセージ化しました。「シードに向けたファンドです」とはっきり明言したということです。これを書いてもらったのが「PARK」というクリエイティブの会社で、WAVEプログラムにも参加してもらっています。

 やはり中心軸が決まると、組織的に一つの方向に動いていける。そして投資先にも僕らのやりたいことが伝わって、紹介も増えますよね。これからVCの活動を続けていく上で、このブランディングは非常に重要な意味を持つと思っています。

「3ヵ月で次の資金調達に行くよ」


―次に新しくローンチしたインキュベーションプログラムについて教えてください。
木下 WAVEは、各期3社前後のシードスタートアップを対象にした、3ヶ月のインキュベーションプログラム&デモデイです。年に2回の開催を予定しています。テクノロジー産業に新時代の“波”を起こすということでWAVEという名前に決めました。次だと、2017年6月から8月にプログラム、8月下旬にデモデイを開催します。採択した企業には500~1000万の資金調達、オフィススペースの提供、逐次メンタリングなどを行います。

―既存のインキュベーションプログラムとはどう違うのでしょうか?
木下 まず大きな特徴が、先ほど紹介したブランディング分野の「PARK」と、UIデザイン等を専門領域とする「STANDARD」という会社の2社と一緒にプログラムを進めます。この2社と提携して、シードスタートアップの初期のプロダクトづくりを支援することに決めました。費用は、私たちが負担します。そして、もう一つ重要なことがこのプログラムを“やり続ける”ということです。

―なぜクリエイティブの会社と提携することに決めたのですか?
木下 スタートアップや起業家にとって重要なこと、目標って何らかの問題解決をすることだと思うんです。いきなり黒字化を狙いに行って動き回っても、価値のあるものは生まれない。そこで、シードの段階から事業の中心軸やデザインを洗練して、会社自体を強くする必要があると考えました。僕たち自身も、ミッション・バリューをブランディングしてみて、その重要性を感じています。

 あと、今のスタートアップ業界は、昔と比べて金銭的にも余裕が出てきて、起業家やVCの数もかなり増えてきました。その中で、スタートアップだからこそ他企業との差別化、ブランディングを強化していかなければならないと強く感じました。でもシードのスタートアップには、そこまで手を回せる余裕がありません。そこを私たちがサポートしていきたい。
2017年4月5日に開催された「WAVEデモデイ」の様子


―もう一つの重要なこと“やり続ける”とは?
木下 インキュベーションプログラムみたいなものって続かないじゃないですか。僕もいろんなイベントを開催してきたけれど、どれもあまり続かなかった。せっかく人を集めているのに結局何も生まれないという結果に終わってしまう。それだと意味がない。だから3ヵ月間のプログラムを年に2回、しっかり続けるということを目標にしました。続けることで、このプログラムがSkyland Venturesを想起させる“顔”になってくれればと願っています。

―なぜ3カ月と設定したのですか?
木下 これは「3ヵ月で次の資金調達に行くよ」ということを明確に示すためです。VCって締め切りがない。1年で3,4件しか投資していないVCもけっこうあります。それが悪いとかではないんですけど。だから僕たちは、3ヵ月という期間を設定しました。VCの原点に立ち戻ると、「僕らが投資したから次のファイナンスにつながっている」ということが重要で、それを3ヵ月ごとに続けていく、ということです。

―岡山さんはなぜ「損をしている木下さん」とずっと一緒に働いているんですか?
岡山 やっぱり面白いからですね。少年みたいなんですよね。普遍的な童貞感というか、パンクロックみたいなものを感じます。僕はエッジしながらドヤる人って苦手で、木下さんは良い意味ですれてない。ちょっと屈折している部分もあるんですけど。そういうシンプルな力強さみたいなものに惹かれています。そういう部分も、Skyland Venturesの色としてこれから関わる人に伝わって欲しいなと思っています。
(文・構成=明豊、大森翔平)
ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
木下さんとはかれこれ5年ぐらいの付き合いになる。最初に会ったころは、トーマツベンチャーサポートの斎藤さんと二人でイベントをいろいろやっていてお手伝いをさせてもらったこともある。たまに連絡が来るが、会った当時とあまり変わっていない。岡山さんの「普遍的な童貞感」という言葉に妙に納得。

編集部のおすすめ