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全国から視察が殺到、長野県飯綱町議会の“議論する力”

<情報工場 「読学」のススメ#31>無用の長物だった地方議会の再生
全国から視察が殺到、長野県飯綱町議会の“議論する力”

長野県飯綱町議会ホームページより

 2017年は、地方自治法が日本国憲法と同時に施行されてから70年にあたる。憲法とは異なり、地方自治法は施行後いくども改正を重ね現行のものになった。現在も内部統制の強化などを目的とした改正法案が国会に提出されている。

 地方自治法のこれまでの改正の中でもっとも重要な意味を持つとされるのが、1999年の改正だ。ほぼ同時に行われた関連法の改正をひっくるめて「地方分権一括法」と呼ばれるこの改正では、国が地方を下請け扱いする「機関委任事務」が廃止された。国が地方行政に関与するルールも整えられ、それ以降、名目上は国と地方が対等になった。

 だが、実態はどうか。地方議会に政策立案能力が欠けていることもあり、ほぼ首長だけで政策を作り、実行している自治体が多い。その首長による政策も、中央官庁などが作成する政策メニューに沿ったものがほとんどだそうだ。中央と地方の「対等」など名ばかりということだ。とくに地方議会は中央行政の追認機関にすぎず、「無用の長物」と言われることさえある。

 それに輪をかけるように、昨今は政務活動費不正など不祥事も相次ぐ。地方議会と聞いて、良いイメージを抱く人は少ないのではないか。

 しかし、全国に1,788(2015年7月1日の時点)ある地方議会の中には、本来の機能、あるいはそれ以上に優れた働きをするまでの改革に成功した議会も少数ながら存在する。その一つが長野県飯綱町議会だ。
 2008年から「議会力を向上させ、首長と切磋琢磨する議会」を目標に掲げ、独自の政策、制度設計など、斬新な取り組みを進めてきた。今では全国の多数の自治体が視察に訪れるなど、地方議会改革のモデルケースとして注目を集めている。『地方議会を再生する』(集英社新書)では、地方自治ジャーナリストが同町の議会改革の一部始終を追っている。
 


議員と住民代表が議論する「政策サポーター制度」


 長野県北部に位置する飯綱町の人口は11,553人(2016年12月末現在)。2005年に牟礼村と三水村が合併して誕生した町で、農業とスキー場、ゴルフ場などによる観光業が基幹産業だ。

 少子高齢化で過疎が進み、財政難に陥り衰退の一途を辿る地方自治体は、今の日本では少しも珍しくない。飯綱町もかつては典型的な衰退市町村だった。とりわけ、合併直後に旧牟礼村の第三セクターのスキー場破綻が表面化した時は、財政破綻のピンチだった。町議会議員の平均年齢は、2016年7月1日時点で66.8歳。全国でも高齢化の進んだ議会である。

 そんな飯綱町が起死回生の改革に成功した。その成果としてとくに注目されているのが、2010年スタートの「政策サポーター制度」だ。発案者は議会改革を主導した寺島渉議長である。

 政策サポーター制度は、裁判員制度や検察審査会の行政バージョンともいえる。つまり、一般住民に実際の政策立案の議論に参加してもらうのだ。これまで、第1回は12人、2013年発足の第2回は15人、そして2015年からの第3回には16人の町民がそれぞれ政策サポーターとして議論に加わった。

 議員のなり手不足に悩む地方議会は多い。政策サポーター制度導入以前の飯綱町も例外ではなく、若手の立候補者がほとんどいなかった。

 そのせいで前述のように議員の平均年齢が高くなる。女性議員もわずか。選挙は無投票に近く、議会が町のあらゆる属性や立場の人々を代表しているとは、とても言えない状態だった。

 政策サポーター制度は、そんな議会の偏りを補正する制度でもある。サポーターは、公募のほか、年齢や地域、職業や性別などを勘案しながら、議員たちが手分けをして町民に声をかけて集められた。その結果、第1回の12人の内訳は、農業4人、会社員3人、自営業3人、会社役員1人、無職1人となった。

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ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
飯綱町の議員たちが獲得した「議論する力」は、議会だけでなく企業にももとめられているのではないでしょうか。企業は今、「多様性」を重視し始めている。単純にいろいろな人を集めるだけではうまく機能しない。様々な意見をお互いに受け入れ、それに対して的確な発言と判断ができるようになるのに、『地方議会を再生する』は参考になりそうです。

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