「等身大の実力が素直に表れた」トヨタの経営は安定か、停滞か、成長への渇望か

自動車業界が大きく変革する中で、道なき道を進む

 トヨタ自動車が新たな“成長”の道筋を模索している。組織の巨大化による構造的な問題に加え、自動車市場に続々と押し寄せる米グーグル、米ウーバー・テクノロジーズといった“ゲームチェンジャー”との戦いも控える。自動車産業の大転換期に、トヨタはどのような成長戦略を描くのか。

 トヨタが10日発表した2017年3月期連結決算(米国会計基準)は売上高27兆5971億円(前期比2・8%減)、営業利益1兆9943億円(同30・1%減)で減収減益。グループ世界販売台数は1025万台と過去最高を達成したが、円高や諸経費の増加などが影響し日本、北米、アジア、その他地域がこぞって営業減益。欧州は営業赤字に転落した。

これが実力と思うと大変悔しい」


 都内で会見した豊田章男社長は「為替の追い風も向かい風もない中で、まさに現在の等身大の実力が素直に表れたものだ」と語った。売上高、各利益段階とも過去最高を記録した16年3月期決算と比べると業績は見劣りするが、営業利益で2兆円に迫る実力がトヨタの等身大といえる。

 豊田社長は「意志ある踊り場」「年輪的成長」と、将来に向けた基盤固めや着実に成長する会社の姿を表現してきた。巨大企業となり、以前のように大きく成長する局面ではなく足踏み状態だが、「いずれは伸ばしていかなければならない」(トヨタ首脳)。機動力向上のため16年4月にカンパニー制を導入し、「仕事の進め方改革」にも着手した。

 18年3月期決算は想定為替レートを足元より円高方向にみていることもあり減収減益予想だが、永田理副社長は「これが実力と思うと大変悔しい」と成長への渇望を隠さない。

ダイハツ、マツダ、スズキ…仲間づくりどこまで


トヨタの豊田章男社長(左)とダイハツ三井正則社長

トヨタの豊田章男社長(左)とスズキの鈴木修会長

トヨタの豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長

 13年度に自動車メーカー初の年間販売台数1000万台を突破し、「道なき道を進んでいる」(同)。誰かの背中を追うのではなく、自ら未来を切り開かねばならないトヨタが意識するのは“仲間づくり”だ。

 世界初の市販燃料電池車(FCV)では15年1月に単独保有する約5680件の燃料電池関連特許実施権の無償提供を発表。技術の標準化や規格づくりなどで他社との連携が欠かせないためだ。

 15年5月にマツダと包括的業務提携で基本合意。17年2月にはスズキと業務提携の検討開始で合意した。マツダとは電動車両とコネクテッドカー(つながる車)で具体的協業の検討に入っている。

 16年8月にトヨタの完全子会社となったダイハツ工業は、25年度にダイハツ開発車のグローバル生産台数を15年度に比べ約100万台増の250万台に定めた。

 ダイハツの三井正則社長は「生産は両社の持つ既存の事業体を有効活用する」とし、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に市場拡大を見込む新興国需要を取り込む戦略。連携を深化させ、成長軌道を描く。

首脳から躊躇なく飛び出すグーグル、テスラ、ウーバー


米TRIでAI研究を進める(AI搭載の試作車「コンセプト―愛i」)

 「新興企業をしっかり見ていかないと見誤る」。自動運転車の開発が話題のIT大手のグーグル(担当は持ち株会社アルファベット子会社のウェイモ)、米アップル、配車サービスのウーバー・テクノロジーズ、電気自動車(EV)の米テスラ…。これら企業の社名が、トヨタ首脳の口から躊躇(ちゅうちょ)なく飛び出す。自動車業界に変革を促す新規参入組だ。

 「そういった企業が紹介されるときに、トヨタも触れられるようにしなければならない」(トヨタ首脳)。トヨタはウーバーと16年に資本・業務提携し、海外でライドシェア(乗り合い)関連の協業を進める。

 時価総額で米ゼネラルモーターズ(GM)を抜いたテスラとも10年に資本・業務提携し、共同開発したEV仕様のスポーツ多目的車(SUV)「RAV4」を米国で発売した実績がある。

 ウーバーが進めるライドシェアは自動車需要を減衰する恐れがあり、テスラが取り組むEVの普及はガソリン車市場を脅かしかねない。
テスラのイーロン・マスク氏(Bret Hartman / TED)

 それでも変革者と連携するのは、同じ土俵で戦える準備と危機感を併せ持つからだ。豊田社長も「現在の自動車産業はパラダイムシフトが求められている」と言い切る。

 トヨタは16年1月には米カリフォルニア州シリコンバレーに、人工知能(AI)研究・開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」を新設。同年12月にはEVの企画・開発を担当する社内ベンチャー組織「EV事業企画室」を発足し、自力での対応にも動く。

 18年3月期は研究開発費1兆500億円と過去最大規模を計画する。自動車産業でゲームチェンジが起これば、“成長”どころか既存市場が消失する懸念さえある。

 部品メーカーを巻き込む事業再編もくすぶる。トヨタはAIを自動運転技術に応用するが、ロボットなど非自動車分野も視野に開発を進める。長期目線では自動車の進化はもちろん、非自動車分野が重要な役割を担うかもしれない。

「自動車=トヨタ」米国に1兆円


トランプ公式Twitterより

 目配せは産業構造の変化にとどまらない。保護主義を掲げるトランプ米大統領はメキシコに新工場を建設中のトヨタを名指しで批判。トヨタは19年に年産能力20万台のメキシコ新工場を稼働し、小型車「カローラ」を生産して米国へ輸出する計画だ。米国はトヨタの主力市場であり、トランプ大統領の主張通りに米自由貿易協定(NAFTA)が見直されると痛手だ。

 米国に新工場を建設するように促すトランプ大統領に対し、トヨタは米国への貢献度を説明。まず、米国で今後5年間に100億ドル(約1兆1400億円)を投資する計画を1月に豊田社長が滞在中の米国で発表。その詳細であるインディアナ州やケンタッキー州の工場での投資と雇用の規模などを、相次いで公表した。

 貿易摩擦ではとかく、基幹産業である自動車がやり玉にあがり、日本の場合は「自動車=トヨタと関連づけられる」(トヨタ首脳)。

 ケンタッキー州の工場への投資の発表資料にはトランプ大統領が前向きなコメントを寄せるなど明るい兆しがでてきた。とはいえ、英国の欧州連合(EU)離脱問題などもあり、難しいかじ取りは続きそうだ。
米ケンタッキー州の工場=米国トヨタのプレスサイトから)

(文=名古屋・今村博之)

日刊工業新聞2017年5月11日

安東 泰志

安東 泰志
05月11日
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18年3月期は2期連続減益予想だが、保守的な引当金や想定為替レートを考えれば上振れする可能性は十分ある。また、本文中にあるようなクリーンエネルギーやAI対応に十分目配りして巨額の研究開発費を計上するなど、将来への布石も打っている。非常に安定感のある経営だ。

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