なぜ法政大は「軍事研究」の禁止をいち早く打ち出したのか

田中総長に聞く。「他者の自由を奪う武器の研究は存在基盤を揺るがす」

 2017年2月の入試で志願者数が近畿大学に次ぐ全国2位となった法政大学。田中優子総長は同大初の長期ビジョン「HOSEI2030」や、大学憲章「自由を生き抜く実践知」の策定によりベクトルをそろえてきた。軍事研究禁止をいち早く打ち出す一方、キャンパス再編では粘り強い対話で出口を模索する。言語化により学内の意識を共有化する田中優子総長のスタンスを聞いた。

 ―“自由”に対する思いを。
 「本学の役割は、自由とそれを実現するための知性の育成にある。学生は他者とのやりとりを通じ、周囲に振り回されずに自ら考え、自由を獲得して活躍できる能力を身に付けていく。学問の自由も重要だ。政府の助成金などにひかれ、自由を失わないように注意が必要だ」

 ―1月に「軍事研究は行わない」「研究の情報は公開が原則」という方針を打ち出しました。
 「他者の自由を奪う武器などの研究は、本学の存在基盤を揺るがすものだ。憲章の精神にのっとった教育・研究でなくてはならない。一方で、国や産業界の考えを把握するのに有効な助成事業もある。本学の137年の歴史で育まれた基準により、それぞれの性質を見極める」

 ―90年代に急拡大し、15学部を抱えるまでになりました。
 「『スポーツ健康学部』や、全学生を短期留学させる『国際文化学部』は早期の設置で他大学をリードしてきた。今は、ネット環境の高度化や留学促進で教育の質を向上させるのが課題だ。18年度には科目の約半分を講義と議論からなる100分授業に変える。派手で一時的な注目を集めるのではなく、長く信頼され続けることがブランド構築につながる」

 ―長期ビジョンの具体策に、多摩キャンパス(東京都町田市)の市ケ谷キャンパス(同千代田区)への一部移転があります。
 「『総論賛成、各論反対』の案件だが、教員の対立は学生の教育に悪影響を及ぼす。どうすれば最も皆の意欲が出るか考え、自然に効率化の案が出るような状況にしたい。大学は突然の変化が苦手だが、やらなくてはいけないと確信したことを、徹底的に話し合って一つずつ進める」
田中優子さん

田中優子(たなか・ゆうこ)74年(昭49)法大文卒。80年院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学、同年第1教養部専任講師。83年助教授、91年教授。12年社会学部長。14年総長。神奈川県出身、65歳。


【記者の目/言葉で伝えること強く意識】
重要テーマは大学のサイトで総長の発言として意思表明する点が印象的だ。学内外に向け言葉で伝えることを強く意識している。専門の「江戸学」に合わせた和装の女性トップという特色も周囲を引きつける。同大の魅力に気づかせるきっかけとして存在感を発揮している。(聞き手=山本佳世子)

軍事研究禁止の論点Q&A


Q 大学における軍事研究禁止の論点は。
A 大学は研究者の自由な発想に基づく学術研究を大切にする。そのため軍事利用という重大な「目的志向型研究」について、研究費不足などを背景に引き受けるのは問題だと議論になっている。2015年度から防衛装備庁の進める「安全保障技術研究推進制度」は、研究管理や成果秘匿の点で学術研究の自律性や公開性に反するとされる。

Q ケース・バイ・ケースとなる理由は。
A 先端科学技術の基礎研究は、応用が軍民両用(デュアルユース)となりがちで、一概に決めるわけにいかない。理工系が強い大学では「成果公開や基礎研究限定ならよいのでは」という声もある。一方、人文社会系が強い大学だと、倫理的に問題だと見る傾向がある。

Q 日本学術会議の考え方は。
A 戦前に科学者が戦争協力した反省から、軍事目的の研究を行わないとした過去の声明の継承を3月に打ち出した。しかし4月の総会を含め、議論は終了ではなく継続状態。過去の声明と異なり、各大学や研究機関で技術的・倫理的に審査する制度の設定を求めている。

日刊工業新聞2017年5月11日

昆 梓紗

昆 梓紗
05月11日
この記事のファシリテーター

バンカラ、根強い学生運動のイメージが強かった法政大学。学生時代によく訪れていましたが、ちょうどそういった旧来の「法政大学」から新たなステージへと変革している時期でした。その象徴のように市ヶ谷キャンパスの建物をほぼ一新。都会的でスタイリッシュな雰囲気に合わせ、集まる学生も変わっていったように思います。

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