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後継者がいない!M&Aを検討する中小企業が3割超す深刻度

事業承継後押しへ政府は全面支援に乗り出す
 経済産業省・中小企業庁がまとめた『2017年版中小企業白書および小規模企業白書』によると、後継者がいないために事業の譲渡や売却、統合などM&A(合併・買収)を選択肢に入れている中小企業が3割超に達した。
 ただ、従業員の雇用維持など課題を認識しつつも、準備や対策が進んでいない実態が浮き彫りになった。企業庁は、「団塊の世代」の経営者が数十万人規模で引退時期に差し掛かる今後5年を事業承継支援の集中実施期間に位置付け、小規模M&Aマーケットの形成や事業引き継ぎ支援センターの機能強化など、新たな政策を打ち出す。

 企業庁が東京商工リサーチに委託した調査では、後継者・候補がいる企業ではM&Aを選択肢に入れた比率が約23%にとどまったが、不在の企業では同約37%にのぼった。

 ただ、相談相手は普段から接触機会の多い顧問公認会計士や弁理士、親族、取引金融機関が多く、商工会や商工会議所、事業引き継ぎ支援センター、よろず支援拠点など専門家の割合は少なかった。

 白書では廃業企業の半数が生産性を大きく押し下げていることを明らかにした上で、こうした企業は存続企業に比べて利益率が高い点に着目。「後継者不足による廃業を減らすことが重要」と指摘し、「時間のかかる事業承継やM&A(合併・買収)の際の多様な課題に対し、金融機関や支援機関によるきめ細かな支援が必要」と強調した。

 企業庁は今後、商工会、商工会議所、金融機関などが参加する「事業承継プレ支援プラットフォーム」を構築、今後5年で25万―30万社に対してプッシュ型の事業承継診断を実施する方針。事業承継の専門人材も育てる。

 早期の事業承継に対するインセンティブも強化。後継者による新事業展開やビジネスモデル転換を後押しするなどモチベーションを高める「ベンチャー型事業承継」を支援する。

 さらに後継者不在の中小企業と譲り受けを希望する中小企業のマッチングを行う事業引き継ぎ支援センターの活用を最大化する。企業データベース(DB)を、使用者を限定する形で一部開放するなどして、民間の担い手を育てる。同センターの成約件数を17年度1000件、5年後に2000件を目指す。

 事業承継に向けた問題意識を喚起し、支援後の安定成長に向けた“ポスト支援”も充実させることで、事業承継の円滑化を図り、社会的ロスとなりうる黒字廃業を減らす。
             
日刊工業新聞2017年4月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 中小企業の廃業が深刻化している。2017年版中小企業白書によると、倒産件数は減り続けている一方、休廃業・解散件数は16年に2万9583件と過去最多となった。  原因は経営者の高齢化と後継者の不在だ。中小企業の経営者年齢のヤマ(最頻値)は、この20年間で47歳から66歳に高齢化した。一方で親族に適当な後継者が見当たらず、経営が順調でも廃業を選択する例さえある。  この際、従業員など親族以外への事業承継を視野に入れるべきだ。親族外だと「金融機関への個人保証が必要」「自社株の買い取り資金がない」などの理由で後継者候補が二の足を踏むケースが多い。だが中小企業庁の調査では、中規模法人の3分の1は親族外承継を行った。  例えば山梨県南アルプス市で自動組み立て機や自動検査装置を製造するオーテックメカニカルは、従業員41人ながら2代続けて親族外承継に取り組む。創業者の芦澤邦秀会長は50歳を過ぎた創業10年後から、従業員が会社を継ぎ、長く会社が存続する仕組みづくりを意識した。  経営に関する考え方を従業員に伝える発表会を毎年行い、経営の方向性を浸透させた。02年には当時41歳の若林栄樹現社長を取締役に起用。09年に現体制になるまで徐々に経営を引き継いでいった。13年には次の社長候補として42歳の営業部長を取締役に登用している。  小規模企業の場合、親族承継は9割を占める。ただその際もできるだけ早い時期に承継に取り組み、トップを交代したら口を差し挟まないことが必要だ。  東京都内の2代目経営者は「創業者は自分が元気なうちに後継者に実権を渡すべきだ。もうろくしたから後は頼むといったケースが一番不幸だ」と話す。「おやじが任せてくれない」「“番頭さん”が煩わしい」といった声も聞く。  廃業企業は存続企業に比べて、従業員数や売上高は小さい半面、利益率は高い傾向にあると白書は分析する。中小全体の生産性を高めるためにも、後継者不足による廃業を減らすことが重要だ。

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