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エプソン社長、サービスは大事だがハードの技術革新から逃げる口実にしない

「大企業は反省が必要だ。優秀な学生が集まるのに生かしきれてない」
エプソン社長、サービスは大事だがハードの技術革新から逃げる口実にしない

エプソン公式動画より

 ちまたに商品やサービスがあふれ、新しい価値が生まれにくくなっている。セイコーエプソンは、世界初の水を使わない紙の繊維化技術で、オフィスの古紙リサイクル装置「ペーパーラボ」の販売を始めた。主力のプリンターなどと離れた飛び地に、どう新しい価値を生み出したのか。碓井稔社長に製造業のイノベーション(技術革新)について考えを聞いた。
碓井稔社長

 ―既存事業と全く違うビジネスに着眼した理由は。
 「プリンター類を使う人の課題に正面から向き合った。紙は創造性をかき立てる有効な手段だが、森林伐採を伴い使い捨ても多いため、イメージが悪い。この問題をペーパーラボで変えたい。根本を考える姿勢は当社の開発に共通している」

 ―全くの新事業は開発期間もコストもかかります。
 「乾式の繊維化技術を使ってプリンター用部材の吸収体を生産し、稼ぎながらペーパーラボを開発した。きちんと技術の特徴を捉えれば、最終目的の前でも世の中に貢献できる。生産など開発以外の部署の目が入り、市場の洗礼を受けて技術を磨く利点もある」

 ―日本の製造業はサービスへシフトしています。ハードウエアの革新は限界ですか。
 「本当に必要なサービスは大事だが、ハードの技術革新から逃げる口実にしてはいけない。例えばプリンターでは、新興国は1枚当たりのプリントコストに厳しいため、ニーズに向き合うことでハードも新しい発想を生み出せる。一方、日本は機能追加によって商品を買う。本質的なニーズから目を背けられる状況になっている」

 ―日本発のビジネスは少ないですが。
 「大企業は反省が必要だ。優秀な学生が集まるのに生かしきれてない。他社にないものよりも大きな潮流に乗ろうとする。IoT(モノのインターネット)は技術インフラとして重要だが、それだけではダメ。また、日本人は従順だ。アナリストらが『欧米がいい』と言えば追いかける。ぜい肉がついた身体で先行する企業を追いかけても、勝ち目はない」

 ―他社と違う価値を生むためには。
 「他社より上でなく、これまでにない価値をつくる高い志を持つことが一番大事だ。そこへ自分たちの知恵を出す。また、その技術にどの程度の可能性があるか、冷静に見極めて道筋を立てる」

【記者の目・革新受け入れる土壌づくり急務】
 日本では破壊的なイノベーションが起きにくいと言われている。碓井社長は、「日本は従順で、俺みたいに天邪鬼じゃない」と言うが、受け入れる土壌の有無も関係する。ある研究者は「大企業では短期で成果の得られないテーマは許可が出ない」と語っていた。イノベーターになれなくても、せめて受け入れられる側でありたいものだ。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2017年4月28日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
セイコーエプソンは自らの強みを技術力であり、垂直統合であるとしている。今あるニーズを突き詰めれば、ハードウエアの力で解決できることはまだまだあるというのが碓井社長の持論だ。以前は「良いモノを作れば売れる」という考えが根付いていたが、近年は「良いモノをどうしたらビジネスにできるか」という意識が根付いてきたという。とはいえビジネスを大きく広げるには、ソフトやサービスをビジネスつなげる力が必要になる。それも実現してもう一段の飛躍ができるかが、今後の課題になる。

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