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ネクタイやチーフでモダンな表情が光る、伝統の江戸小紋

マレーシアではドレス、シンガポールではシルクのストールに変身
ネクタイやチーフでモダンな表情が光る、伝統の江戸小紋

柄を均等に型付けする作業は、習得に時間がかかる

 鮫(さめ)、霰(あられ)、籠目(かごめ)といった細かな柄を型染めする江戸小紋。中には奈良時代に作られた模様をベースにした柄もあり、日本の伝統美を継承している。

 東京・新宿区早稲田―落合一帯には、江戸小紋を手がける染色工房が今もある。明治15年(1882年)創業の富田染工芸(東京都新宿区、03・3987・0701)は、色のりの調整、布に型紙を置いてへらでのりを塗って柄を付ける「型付け」、染料を定着させる「蒸し」、水洗い、乾燥を職人が手がける。手作業である故に多少の色ムラが出るが、それが機械染色には出せない味だ。

 工房には12万柄の型紙がある。5代目当主の富田篤社長は「代々の当主が新しいデザインを追加していった結果」と説明する。かつては流行に合わせ、毎年さまざまな柄を作っていた。

 同じ柄でも、そのデザインは工房ごとに異なる。例えば、小さな点と弧で構成されるうろこのような柄の鮫小紋。一般的な柄だが、工房によって微妙に点や弧の角度が異なる。

 富田社長が江戸小紋の可能性を見いだすのは、ポケットチーフやスカーフ、ネクタイなどの小物類だ。ポケットチーフは、御所車と丸通しといった古典的な柄を組み合わせつつ、スーツにも合う現代的な配色とした。
 
現代の生活に合う「粋」なネクタイ

 夏の冷房対策に重宝しそうなシルクのスカーフは、柳と金魚をあしらった。友禅のように絵を描くのではなく、型染めで模様を作っていく。金魚の体は小紋の柄で表現した。「絵を描くのは他でもできる。小紋でいろいろな表現に挑戦するのが面白い」(富田社長)。

 素材にもこだわる。カシミヤとウールのストールは東京・八王子の織物メーカー製。シルクも金沢など日本各地の技が光る素材を使う。

 同社では同じように型を使って模様を染める江戸更紗も手がけており、2016年にはシンガポールやマレーシアでの販売を始めた。マレーシアには反物で輸出し、現地のデザイナーがドレスに仕立てる。シルクのストールはシンガポール人の富裕層に人気が高い。

 「着物は昔のように売れないが、染めるものは他にたくさんある」と富田社長。「着物の富田」から「染めの富田」へ脱皮し、江戸小紋の継承と世界への飛翔を狙う。

【メモ】武士が登城する際に着る裃(かみしも)の柄に使われ、江戸中期には庶民にも広がった。江戸小紋の着物は、おしゃれ着や略式の礼装として今も根強い人気がある。着物の染色は京都、金沢、東京が三大産地とされる。江戸時代は神田や浅草に染色業者がいたが、川で反物を水洗いするため、きれいな水を求めて神田川をさかのぼり、新宿区の早稲田、落合一帯に多くが移転した。
日刊工業新聞2017年4月28日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
柄も色も一見派手に見えますが、どこか上品さを感じさせるのは、細やかな伝統の技が生きているからでしょう。

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