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普段は予算を取り合う経産・文科・総務の3省が、AI産業化へ奇跡に近い連携

ロードマップ作成も産業界や規制省庁を巻き込めるか
 日本の人工知能(AI)戦略が実現するか死文化するか、2017年度は節目の年になりそうだ。経済産業省と文部科学省、総務省が連携する人工知能技術戦略会議(議長=安西祐一郎日本学術振興会理事長)で、精緻な開発計画と産業化へのロードマップが作成された。3省のすみ分けではなく、それぞれの成果を統合し日本の総合力を高める戦略を描く。ただ文面からは産業界や規制省庁との連携が見えにくい。17年度予算の規模も米国の巨大IT企業と戦うには心もとない。政府開発援助(ODA)予算など、3省で外部を巻き込んでいく必要がある。

 3月31日、新年度入りを前に「人工知能技術戦略」が公開された。同戦略では2030年にAIが実現する社会像を描き、必要な技術群とその開発工程を示した。産学官が技術やビジネスモデルを持ち寄り、AI社会を実現していくロードマップになる。

 例えばサービス分野では、産業技術総合研究所が顧客の行動を分析し予測・介入する技術を構築し、理化学研究所は不完全なデータから最適解を求める解析プラットフォーム、情報通信研究機構は多言語音声翻訳システムを開発する。

 これらの要素がそろうと、外国人旅行客の消費行動を予測し、先回りしてサービスを提案できるようになる。各計画は17年度予算とも対応しており、実際に開発プロジェクトが走る。3省の直轄と連携部分は絵に描いた餅にならない。

 安西議長は「(例年予算を取り合う)3省が共同作業を続けてきたことは奇跡に近い。次は戦略を実現していくフェーズ」と説明する。
人工知能戦略会議で発言する安西議長

ODA予算活用も


 課題は、法制度を預かる規制省庁や産業界との足並みがそろうか不透明な点だ。企業にとってAIは我先にと事業化を進めている主戦場だ。各社、投資規模は公開するが、開発や事業化の計画は明かせない。技術開発は短ければ2週間、長くても半年程度で計画が更新されていく。

 規制省庁は自動運転ドローン対応に追われる国土交通省と警察庁、AIの医療対応を進める厚生労働省など、何年に、どこまで規制改革を実現するか確約できる段階にない。そのため戦略会議は産業化ロードマップの年代に幅を持たせた。

 戦略会議の構成員からも「企業のコミットを盛り込めず困っている」とため息が漏れる。安西議長は「3省の連携はうまくいった。次は3省で他省庁や産業界を巻き込んでいく」と強調する。

 また予算規模の課題も残る。AIはアルゴリズムだけでなく、センシングやデータインフラ、セキュリティー、大型計算機など、構成要素のほぼすべてが差別化要因になっている。国として研究を止めれば、そこが弱点になる。

 対して米国はITトップ6社の研究開発費が5兆円を超える。その内の20分の1が研究費だとしても、日本政府のAI開発予算より1ケタ大きい。選択と集中をできない段階で、巨人を追い掛ける苦しさがある。

 そこで注目されるのがODAの予算だ。AIは将来、インフラ技術になりうる。随時遠隔更新できるインフラとしてパッケージ輸出できれば、相手国と息の長い関係を築ける。

 安西議長は「AIをインフラ輸出の路線に乗せるのは有望。ただ企業の戦略と政策をすり合わせ、グランドデザインを描ける人材がいるかどうか」と指摘する。3省は産業界と他省庁を巻き込めるか、勝負の年となりそうだ。
(文=(小寺貴之)
日刊工業新聞2017年4月21日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 三省(経産・文科・総務省)ではありませんが、内閣府は国交省の公共事業費で技術開発の社会実装を進める意向です。新しく作るインフラは新技術を試す良い場です。国土強靱化で作るはインフラはスマートになるのでしょう。AI視点では、新設インフラにセンサーが張り巡らされて、AIで監視すると点検・保守などが大幅に効率化されるかもしれません。交通もエネルギーも防災もインフラはAIの主戦場です。厚労省の社会保障費からは医療系AIが学習するデータが採れます。個別化された疾患予防生活習慣をAIが提案できるようになるかもしれません。まずは国内からですが、内閣府はあらゆる予算を研究開発投投資のまな板にのせて対GDP比1%の達成を目指します。目標まで、まだ9000億円足りないそうです。  海外で使う予算は国内予算に比べて桁違いの金額がつくことがあるので、新技術の社会実装や現地での人材育成を盛り込みやすいです。日本でAIやロボットを学んで、母国で偉くなった元留学生の教授は少なくないので、その人をカウンターパートにおいて、日本から開発を支援して現地で社会実装する形が理想だと思います。ストレージ代のかかるデータや大型計算機は現地においても日本からアクセスすれば良いですし、大事なデータは日本に吸い上げ、AIを随時更新して参入障壁を上げて………と、よからぬことを考えてしまいます。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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