「東芝メモリ」入札、拙速な売却を避けるべき理由

米WDは敵か味方か。政投銀と協調で入札も

 米ウエスタンデジタル(WD)は、東芝が売却手続きを進めているメモリー事業の入札に関連し、官民ファンドの産業革新機構や日本政策投資銀行と協議していることを明らかにした。ブルームバーグなど複数のメディアが報じた。

株主総会まで売却先は決まらない?


 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却先を決める入札に停滞感が漂ってきた。同事業で提携する米ウエスタンデジタル(WD)は売却を契約違反と主張するが、現時点では東芝から入札企業側に対する明確な説明はなく、関係者からは「WD問題が深刻化する可能性も意識している。次のアクションが取れない」と不満の声も出る。東芝は6月下旬に開催予定の定時株主総会までに売却先を決めたい考えだが、間に合わない懸念が出てきた。

 WDは東芝メモリの売却を契約違反とし、東芝に独占交渉権を要求している。東芝はこの主張に対し、WDとのメモリービジネスとの契約は複雑で単純明快な結論を出すのは難しいという認識だ。同社関係者らは「WDとは見解の相違だ」との立場を崩さない。

 東芝は5月から2次入札の手続きを本格化し、19日に入札を締め切る計画だが、後ろ倒しになる可能性が出てきた。仮にそうなると6月下旬の株主総会までに売却先を決め、各国の独占禁止法などの審査を経て、2018年3月期末までに売却手続きを完了するというシナリオも崩れかねない。

 東芝は17年3月期に6200億円の債務超過に陥る見込み。東芝メモリの18年3月期末までの売却に失敗し、資金調達できず2年連続の債務超過となれば上場廃止になる。

 東芝は近くWDの主張への反論を書面で提出する見通し。落としどころを見つけられなければ、東芝の再建計画は根本から揺らぐことになる。
(文=後藤信之、政年佐貴恵)
                  

革新機構の出資検討、日商会頭「議論まだない」


 日本商工会議所の三村明夫会頭は20日の定例会見で、東芝が売却を目指す半導体メモリー事業に産業革新機構が出資を検討しているとの報道について「ボードメンバーの立場でこのこと(東芝メモリへの出資)を議論したことはまだ一度もない」と語った。三村氏は機構の支援対象や内容について意思決定する社内機関のナンバーツーを務めている。

 また、産業革新機構の志賀俊之会長が出資検討表明と受け取れる発言をしていることについて「現在、何が行われているかボードの一員として機構の方から今週も先週も何も聞いていない」とした。

 その上で、志賀氏の発言の真意についてあらゆる可能性を視野に「頭の体操はいつでもしていると言ったにすぎない」と推察した。

日刊工業新聞2017年4月21日



政府の“警戒心”和らげる


 東芝が分社して設立した半導体メモリーの新会社「東芝メモリ」の入札をめぐり、買収を目指す主力陣営が“日本色”を打ち出す動きが活発化してきた。メモリー技術を国内に残したい日本政府の意向に配慮するためだ。また日本連合で東芝メモリに出資する動きもある。ただ仮に日本企業の出資が具体化しても、有力入札企業との間で出資比率に関する調整が難航することも予想される。

 シャープは19日、東芝メモリの入札への関与を検討していることを明らかにした。同社首脳は「IoT(モノのインターネット)時代に半導体メモリーの需要は伸びてくるので、良い投資になる」と前向きな考えを示したが、一番の狙いは親会社の台湾・鴻海精密工業を支援することだ。

 鴻海は東芝メモリの入札に参加したが、日本政府は技術流出や安全保障問題を理由に、中国企業や中国と密接な台湾企業による買収に懸念を示している。

 そこで鴻海は米アップルやソフトバンクとの連携を模索。さらに日本に根を張るシャープを加え、日系連合の色合いを深め、政府関係者らの警戒心を和らげたい考えだ。

 一方、米半導体大手ブロードコムと米投資ファンド・シルバーレイクの連合をめぐっては、日本の政府系ファンドの産業革新機構や日本政策投資銀行が加わる案が浮上した。

 ブロードコム連合は、豊富な資金力を背景に東芝メモリの事業価値を2兆―2兆5000億円と見積もり、買収後の設備投資にも意欲的とされる。

 また安全保障問題もハードルにはならず、現時点で最優良候補となっている。革新機構や政投銀は出資に名を連ね、日米連合で入札を有利に進めたい考えとみられる。

 日本政府、産業界の中でメモリー技術を日本に残すべきだとの考えは強い。財界首脳は18日、「東芝メモリをどうするかは国益に関わる。

 国が支援姿勢を明確にすれば(日本企業が支援するための)方法論はいろいろある」と話した。東芝の主力取引銀行首脳も「政府の意向をくんだ方が良い」と賛同する。実際、4月に入り日本企業が連合を形成し出資を目指す動きも出ている。

 ただ仮に東芝メモリに対する日本企業の出資が具体化しても、それで問題解決とはいかない。東芝メモリの拠点や雇用、開発機能を日本国内に維持するために、重要な経営事項を決める際に拒否権を発動できる3分の1超の出資が必要になる。

 一方、ブロードコムや鴻海の「支配欲は強い」(東芝幹部)。ブロードコムや鴻海などの有力入札企業は日本企業の強い関与は避けたいはずであり、出資比率をめぐる調整は難しくなる。

日刊工業新聞2017年4月20日

安東 泰志

安東 泰志
04月21日
この記事のファシリテーター

WDとの合弁契約は会社分割後も有効なはずだが、その契約を引き継いだ半導体子会社の株式を譲渡するのはWDの承諾が必要だろう。そうすると売り手はWDを中心に考える必要があり、高値売却は容易ではない。
そもそも半導体子会社を売却しなければならない主な理由は、①2期連続債務超過を防ぎ、上場を維持、②銀行の債務者区分下落の防止、の2つだが、そもそも今のような内部統制のまま上場維持するよりは、一旦上場廃止を受け入れ、銀行は半導体子会社の企業価値を担保に支援を続け、然る後にスポンサーを探し、本体は再上場、半導体子会社はIPOするのが王道ではないか。拙速な売却は避けるべきだ。

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