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格安スマホの普及に水を差す「おれおれ詐欺」

インターネット契約を悪用、不正対策へ事業者間で共有システム構築へ
 格安スマートフォンはインターネットを通じた契約が主流だ。店舗での対面販売が基本の大手キャリアと異なり、免許証など身分証明書の画像データを送信して本人確認を行う。格安スマホ事業者は店舗の展開を抑えることで低価格を維持している側面がある。一方、こうした本人確認の仕組みを逆手に取り、身分証明書を偽って契約し、格安スマホを悪用する事例が増えている。業界団体は格安スマホ市場の成長を阻害する問題として捉え、対策を急ぐ。

 2016年1月、通信関連事業者などが加盟するテレコムサービス協会(テレサ協、東京都中央区)の事務所に、警察庁の関係者が訪ねて忠告した。「格安スマホが『おれおれ詐欺』などの特殊詐欺に使われるケースが増えている」―。

 特殊詐欺はそれまでレンタル携帯が使われる事例が多かった。レンタル携帯業者の取り締まりが強化され、代替手段として悪用され始めたのが格安スマホだった。

 「(格安スマホは)店舗で対面せずにインターネット上で簡単に契約できると犯罪グループに認識され、目を付けられたようだ」(テレサ協)という。

 こうした状況を踏まえ、格安スマホ事業者などが加盟するテレサ協MVNO委員会は対策に乗り出した。身分証明者を偽って不正に契約し、詐欺などに使われた格安スマホと警察が特定した場合、警察の要請を受けて格安スマホ事業者がサービスを停止する協力関係を構築した。16年9月に運用を始めた結果、同12月までのわずか4カ月の間に警察からの要請は335件に上った。

 一方で不正契約自体を防がなくては格安スマホの悪用をなくすことはできない。このためテレサ協MVNO委は警視庁の担当者を随時招き、偽造された身分証を見分けるポイントについて講習を受けている。

 その上で、さらに踏み込んだ対策を取る構えだ。不正契約に使われた契約者情報に関し、事業者間で共有するシステムを構築する方向で検討に入った。

 具体的には、警察の要請を受けてサービスを停止した事業者が、その格安スマホの契約者情報をシステムに登録する。他の事業者は契約の本人確認時に、その情報を参照できるようにする。偽造された身分証は使い回して複数の事業者と契約することがあるため、事業者間で情報を共有することで不正契約の拡大に歯止めをかける。

 テレサ協MVNO委の消費者問題分科会に参加している木村孝主査は、格安スマホの犯罪利用の増加について「格安スマホ市場の拡大に水を差しかねない」と懸念を示す。
                 
日刊工業新聞2017年4月18日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
情報共有システムの構築・運用に向けては、その費用を誰が負担するかといった課題が残る。ただ、格安スマホ市場を正しく広げていくためには、業界全体でそうした課題を共有し、対策を加速する必要がある。 (日刊工業新聞第一産業部・葭本隆太)

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