【三菱重工業 劇場型改革の真価#02】M&A掲げ脱“事前主義”

<挑戦する企業アーカイブ>「1兆円くらいのカネはなんとかします」

 会長の大宮英明には忘れられない出来事がある。およそ15年前。射出成形機事業の合弁会社からパートナーの三菱商事が突然、資金と人を引き上げると通告してきた。いくら事業計画を説明しても決定は覆らない。経済的付加価値(EVA)による格付けで撤退区分に落ち込んでいるというのが理由だという。

 当時はまだ商社冬の時代。事業ポートフォリオを組み替える上で投下資本がどれだけ付加価値を生み出しているのかを示す経営指標のEVAを用いた選択と集中を進めていた。

 ところがPL(損益計算書)や事業規模ばかりが議論されていた三菱重工業にはピンとこない。2008年、社長に就任した大宮は「EVAによる評価システムをつくりたい」と動きだし、11年度から自社流の格付けとなる戦略的事業評価制度導入にこぎ着けた。

 事業別にバランスシートをつくり、四半期で管理。ライフステージと収益性/財務健全性を軸にSBU(事業単位)を「伸長・維持」「変革」「縮小・撤退」「新規」に分類。ポジション別に投下資本を配分する。700もの製品群を持ち、機械のデパートと呼ばれていた三菱重工が機動的な事業再編に踏み切れるようになった。

 大宮の指示の下で実務に当たっていたのが現最高財務責任者(CFO)で取締役常務執行役員の小口正範ら。グループ戦略推進室長も務める、宮永俊一体制の参謀役である。

 資金部長としてリーマン・ショックを経験し「PLなんかで会社はつぶれない。大事なのはキャッシュ」(小口)との思いを強くした。

 独シーメンスと共同戦線を張り、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と渡り合った仏アルストムのエネルギー事業買収合戦。GEに軍配が上がったが、宮永がパリで記者会見にまで臨み、総額1兆円を超える大型M&A(合併・買収)合戦に意欲を見せられたのも財務基盤の裏付けがあったからだ。

 「社長には『1兆円くらいのカネはなんとかします』と。親分がやりたいときにお金を用意できないのは悲しい。普段はつつましくても大きく張るときはけちけち言いません」と小口。「アルストムの話もそうだが、勝負のケタが違ってきている。耐えられなくなればジ・エンド」と続ける。

 戦略的事業評価制度は総花経営からの脱却やキャッシュフロー改善という形で実を結び、08年度に1兆6000億円を超えた有利子負債は9000億円台に圧縮された。

 スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は今年、三菱重工の長期格付けを「トリプルBプラス」から「シングルAマイナス」に1段階引き上げた。事業規模5兆円超の高収益企業に向けた下地は着々と整っている。
(敬称略)
               

                  

日刊工業新聞2015年12月16日

長塚 崇寛

長塚 崇寛
04月20日
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積極的なM&Aの推進により、事業規模は4兆円以上に拡大。中期的には5兆円規模を視野に入れる。5兆円の目標達成にはソリューション・サービスの強化やエンジニアリング事業の拡大といった自律成長に加え、M&Aを中心とした外部資源の活用が不可欠。16年度は影を潜めた事業買収など自社主導のM&Aだが、来期スタートの次期中期経営計画では、大型買収を志向する可能性も十分にある。一方、高収益企業を目指す上では、需要減速が続く民間航空機の機体部品事業のコスト競争力強化や火力発電事業を担う三菱日立パワーシステムズ(MHPS)など合弁事業のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、買収後のシナジーを最大 化するプロセス)加速による収益の底上げなどが焦点となろう。

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