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大規模火災に備えよ!4台連携で自律移動する消火ロボット

消防研など産学官で開発。ドローンが上空から火災の状況を把握
大規模火災に備えよ!4台連携で自律移動する消火ロボット

ドローンが上空から状況を把握し、地上の偵察ロボが周囲を調査。放水ロボとホース敷設ロボが現場に投入されて消火に当たる

 消防庁消防大学校消防研究センターは石油コンビナートなどの大規模火災に対応するため、無人で消火活動が可能なロボットシステムを開発した。飛行ロボット(ドローン)と放水ロボなど4台が連携して消火に当たる。作業者は後方からロボットに指示を与えるため、安全を確保しやすい。2018年度に完成させ、各地域への配備を目指す。

 三菱重工業三菱電機特機システム(東京都品川区)、ヒロボー(広島県府中市)、深田工業(名古屋市北区)、東北大学と消防研が共同で開発した。現場に駆け付けると、まず耐熱性ドローンが上空から火災の状況を把握し、地上走行型の偵察ロボが石油タンクの周囲を調査する。放水ロボがタンクに近づくルートと給水ホースをはわせる空間を確保できたら、放水ロボとホース敷設ロボが現場に投入されて消火に当たる。

 ドローンは熱画像カメラや燃焼ガスセンサーを搭載。上空から炎の広がりや放水の軌跡をとらえる。地上偵察ロボも燃えているタンクや周囲の温度を計測し、高温による内圧爆発を監視する。

 放水ロボが放水位置に着いたら、ホース敷設ロボがもと来たルートを戻りながらホースを敷設する。後方で消防隊員が消防ポンプ車とホースを接続し給水する。
手前から偵察ドローン、地上偵察ロボ、放水ロボ、ホース敷設ロボ

 一連の動きをロボットが自動で行う。レーザーセンサーで自身の位置と周辺地図を作成しながら、目標地点まで移動する。消防隊員はロボットが提案する移動ルートの承認とドローンの電池交換などの後方作業ですむ。消防研の天野久徳特別上席研究官は「自律移動する消防ロボは世界初」と胸を張る。

 ロボット4台は一つのコンテナに収容可能。現場に駆け付け15分でドローンを展開し、1時間以内に放水を始める計画だ。ロボットは大型消防車が配備される前の初期消火を担当する。

 大型消防車の準備が整えば、周囲のタンクを冷却し爆発を防ぐなどサポートに回る。そのため自動化できる仕事が増えるほど、隊員が次の手を打てるようになる。

 今後は放水箇所や放水角度の調整を自動化したい考えだ。熱画像カメラは温度差で炎の分布と放水の軌跡が明確に識別できる。風向きが変わって水の届く位置がずれれば、ロボットが放水角度を調整し、隊員が微調整する手間を減らす。

 各ロボットの用途は消防だけにとどまらない。三菱重工の大西献主幹技師は「緊急時の原発冷却水確保など、ホース敷設の自動化ニーズは少なくない」と説明する。数百メートル分のホースは重く、人手で敷設するのはつらい仕事だ。

 三菱電機特機システムの森園竜太郎担当部長は「地上偵察ロボの可搬重量は100キログラムある。災害対応時の物資搬送や警察、防衛用途が期待できる」という。コンビナート火災の消防ロボは市場規模こそ小さいが、技術の応用先は幅広い。天野特別上席研究官は「厳しい現場は高い技術力を求める。他にない技術として広く波及していく」と期待する。

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年4月19日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
企業のロボット技術者は「消防のような小さなマーケットでは、技術の粋を集めて開発をしても全然儲からない」と社内で怒られることが多いです。だからといって開発を止めれば技術の蓄積が雲散霧消してしまいます。警察や防衛など消防の以外にマーケットを広げて技術開発のコストを下げたいところです。また消防隊員さんは道具をとても大切にします。火災現場では道具に命を預けるので、「あれば便利」程度では導入できません。要求レベルは高いですが、一度ロボットを使い始めてくれれば、技術の習得や現場での工夫を重ね、とても優れたユーザーになってくれると思います。使い始めさえすれば現場と技術の進化は他のマーケットを凌ぐはずなので、最初の好循環を如何に作るかが勝負です。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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