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東芝、きょう融資継続の回答期限。地銀、ひとまず続行も

決算発表で不信感和らぐ 「足並みの乱れは感じない」(主力行幹部)
東芝、きょう融資継続の回答期限。地銀、ひとまず続行も

米WDのスティーブ・ミリガンCEO㊧と東芝の網川智社長㊥、成毛康雄副社長(16年7月)

 東芝が銀行団に求めている融資継続の回答が14日、期限を迎える。監査法人からのお墨付きのない「意見不表明」という異例の決算で、銀行団の足並みの乱れが懸念されたが、融資継続を固める地銀もあり、大きな混乱は避けられる公算が大きい。ただ、東芝の半導体メモリー事業の売却をめぐって米ウエスタンデジタル(WD)が抗議しており不安材料は残る。

 東芝は4月末で期限を迎える約5000億円の協調融資の継続と、東芝が保有する上場株式や不動産などの担保設定の可否を14日までに回答するよう求めている。担保設定にはすべての取引金融機関の承諾が必要になるため、東芝の資金繰り安定化には、金融機関の団結が欠かせない。

 三井住友銀行みずほ銀行、三井住友信託銀行など主要行は支援に前向きだが、地銀などほかの金融機関の中には不満分子もあった。決算発表延期を繰り返した東芝自体への不信感もあるが、担保設定で主力行が優遇されているとの不満もある。

 3月に東芝が開いた金融機関向け会合では、半導体メモリー事業を分社した東芝メモリ株式の担保をめぐって足並みが乱れた。「説明不足だった」と主力行幹部は話す。主力行がほかの金融機関を説得する構図がしばらく続き、「事態は改善していった」(地銀関係者)。

 「数字が大きく変わらず違和感もない」「何も出さないよりはまし」。3度目の延期が懸念されていた東芝の決算が11日に発表され、地銀からはひとまず安堵(あんど)の声が上がった。不信感が一定程度和らいだ面もあるようだ。主力行幹部によれば、4月以降は「足並みの乱れは感じない」という。

WDの要求「何で今頃話を持ち出すのか」


 東芝が進める半導体メモリー事業の売却交渉が、混迷を深めている。メモリーの生産で提携する米ウエスタンデジタル(WD)が、メモリー事業の分社や売却に異議を申し立て、独占交渉権を要求したことが要因の一つだ。共同で行っている工場運営に支障が出るというのが主な理由だが、条件で劣るWDが有利な立場を得ようとしているとの見方もある。東芝関係者らからは「何で今頃話を持ち出すのか」と、ため息が漏れる。

 東芝は2000年に米サンディスクと提携し、合弁会社を設立して四日市工場(三重県四日市市)を共同運営してきた。基本的に東芝が建屋の投資を負担し、製造設備は両社で折半する関係を続けてきたが、16年5月にWDがサンディスクを約170億ドル(約2兆円)で買収。これに伴いWDが協業関係を引き継いだ。

 そんなWDが東芝のメモリー事業買収に動くのは自明の理だ。しかし実現には課題がある。一つはWDの資金力。一次入札にはWDのほか、米ブロードコムや韓国SKハイニックス、台湾・鴻海精密工業などが応じたとみられている。

 2兆―3兆円の評価額を提示している企業もあるというが、巨額買収をしたばかりのWDは、提示額で劣っているもようだ。

 もう一つは売却期限の問題だ。17年3月期に債務超過に陥る東芝は、18年3月期中の売却完了が最重要課題だ。しかしWDと東芝のNAND型フラッシュメモリー市場での合計シェアは33%超。独占禁止法の承認に時間がかかる点が懸案となる。

 東芝側は「メモリー事業の分社や売却の手続きには問題がない」(幹部)との立場だ。ある関係者からは「入札に参加した立場での抗議は論理的でない」との意見も聞かれる。

 東芝にとってメモリー事業の高値売却は再建の切り札だ。しかし政府、銀行、協業相手と外部の意向に翻弄(ほんろう)され、身動きは取れなくなりつつある。
(文=政年佐貴恵)

 
日刊工業新聞2017年4月14日
池田勝敏
池田勝敏 Ikeda Toshikatsu 編集局経済部 編集委員
東芝メモリ株売却先をめぐって、東芝と工場を共同運営するWDが東芝に抗議している。東芝メモリ株式の売却は、資金計画の大前提となっている。主力行幹部は「もともと提携関係にあるからWDが何らかの形で関与したいと思うのは自然だ」と冷静に受け止めるが、ほかの取引行関係者からは「下位行の融資姿勢にまったく影響がないとは言い切れない」と警戒する声も上がる。期限を迎える14日の回答が注目される。

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