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なぜ慶大は国からの助成に頼りたくないのか

清家塾長に聞く「私学は建学の理念を実現する存在」
 自由度の高い資金の調達はあらゆる大学で共通の重要テーマだ。学校法人の慶応義塾は運用益を研究費や奨学金などに使える資産である「第3号基本金」が、約600億円と日本の私学で最大規模だ。「独自の考えを貫けるように、公費助成に頼り切ってはいけない」という清家篤塾長の思いを聞いた。

 ―税金を多く使う国立大は国策に沿った運営が基本なのに対し、私学は違うと主張しています。
 「私学は建学の理念を実現する存在というのが、最も国公立と異なる点だ。慶応の創立者、福沢諭吉は幕末から明治維新の激動の時代に、自分の頭で考え判断する基礎として学問を位置付けた。変化の激しい現代も同様だ。実学をもって社会に貢献するのが慶応の建学理念だ」

 ―理想を実現する資金の不足を、多くの大学が嘆いています。
 「慶応はかつて金融資産運用で手痛い経験をしている。2008年のリーマン・ショック直後で、金融資産の時価は簿価を530億円も下回っていた。一部を減損処理してその後、債券など安全なものに買い替えた。しかし私学は建学の理念を貫くためにも、自己財源を増やすことが欠かせない。第3号基本金は塾長就任時より約200億円高い約600億円にまで増やすことができた」

 ―最近は国の助成事業も、終了後に学内資金で継続的に運営することが求められています。
 「10年間の時限事業である文部科学省の『スーパーグローバル大学創成支援』(SGU)もそうだ。運用益で自立運営するための基金に向け、事業開始の14年度から年12億円を積み立てている」

 ―SGUでは慶大は世界レベルの教育研究として「長寿」「安全」「創造」の文理融合クラスターを動かしています。
 「例えば長寿クラスターでは医学や工学だけでなく、社会科学の視点からもアプローチしている。身体や認知の機能が低下した高齢者が、自動運転車や金融取引にかかわる場合の法律や経済をどう考えるべきか。課題解決に向けて総合大学の強みを発揮したい」
清家篤氏

<略歴>
 80年(昭55)慶大院商学研究科修士修了、同年商学部助手。83年商学研究科博士課程単位取得退学。85年助教授。92年教授。07年商学部長。09年慶応義塾長(学校法人慶応義塾理事長兼慶応義塾大学長)。博士(商学)。東京都出身、63歳。
日刊工業新聞2017年4月13日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「塾長の仕事はだれかが引き継ぐことになるが、大学ガバナンス(統治)上、任期はあった方がいい」と、規約になかった塾長任期を自ら提案。5月末に2期8年で退任する。取材でも教育理念に特に時間が割かれ、トップが交代しようとも脈々と受け継がれる私学の伝統を実感した。 (日刊工業新聞科学技術部・山本佳世子)

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