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統合型リゾート、ハコだけでなくエンターテイメント産業の活性化議論を

有識者会議、法整備に向けカジノ運営ルールの検討始まる
統合型リゾート、ハコだけでなくエンターテイメント産業の活性化議論を

「マリーナベイ・サンズ」(公式ページより)

 政府は6日、カジノを含む統合型リゾート(IR)整備に向けた有識者会議(山内弘隆座長=一橋大大学院教授)の初会合を開いた。入場規制の在り方や運営実務を担う「カジノ管理委員会」の役割など議論した。今後、詳細な運営ルールを検討し、夏ごろまでに大枠を決め、秋の臨時国会へのIR実施法案提出を目指す。同法案は、2016年12月に施行されたIR推進法が施行後1年以内をめどに国会提出するよう政府に義務付けている。

 昨年に成立した統合型リゾート(IR)整備推進法(カジノ法)。だがギャンブル依存症の防止策や治安問題、マネーロンダリング(資金洗浄)対策など、山積する課題を残したまま“見切り発車”した。成長戦略の柱の一つである“観光立国”が健全な形で実現するかは、1年以内をめどに策定する実施法案に委ねられた。今臨時国会のような拙速な議論は許されず、国民・企業から幅広く理解を得られる十分な議論が求められる。

 大規模国際会議場やホテルなどを備えたIRは、政府が掲げる観光立国に寄与することが期待される。政府は訪日外国人観光客を20年に倍増の4000万人、30年に6000万人の達成を目指す。

 政府はビザ(査証)発給要件の緩和、免税制度や航空ネットワークの拡充などを講じ、12年に836万人だった訪日外国人観光客は、15年にほぼ倍増となる2000万人弱に急増。同観光客の旅行消費額も12年の約1兆円が15年には3兆4771億円へと約3倍に膨らんだ。

 中国人観光客の“爆買い”が一服し、買い物主体の「モノ消費」からイベントや体験を重視する「コト消費」へと消費の選択肢が広がる中、政府はIRを“呼び水”に外国人観光客を増やし続けることに期待する。

 20年の東京五輪・パラリンピックで日本の新しい文化として情報発信したい意向だ。環太平洋連携協定(TPP)の発効が困難なだけに、IRを新たな成長戦略の柱の一つに位置づけたともいえる。

 すでに北海道や横浜市、大阪府、長崎県などがIR設置を検討。関西経済同友会は3月、関西への外国人観光客数1200万人などを前提に、IRは年間7000億―8000億円規模の投資、開業後10万人弱の雇用創出が期待できるとの試算をまとめている。

 だが経済界は、カジノ法をめぐる拙速な議論は避けるよう求めていた。カジノが持つデメリット面への十分な審議を訴えたが、昨年の臨時国会の衆院審議はわずか6時間弱。政府は安倍晋三首相を本部長とする推進本部を立ち上げ、具体的な規定を盛り込む実施法案づくりの中でデメリット対策をあらためて議論することになった。

 カジノ法は5年以内に見直し可能な規定も盛り込んだ。国民から幅広い合意を得られる実施法案を策定するのはもとより、状況に応じて法律を柔軟に修正し、健全な運営を継続することがIR設置の前提条件となる。
日刊工業新聞2016年12月16日の記事に加筆・修正
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
統合型リゾート(IR)の整備は、観光の振興を目指す上で望ましい政策ではあるが、今のところカジノばかりがハイライトされている。利権が絡みがちなので注意したい。また、老若男女が楽しめるリゾート施設のあり方、ハコだけでなくエンターテイメント産業自体の活性化など、もう少し幅広い議論を望みたい。

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