中国人起業家たちの“素顔”を追え。金銭志向から理想志向へ

90年代に生まれが主役、「Zero to One」を目指す

 あいさつの言葉が、「你好(ニーハオ)」から「創業了?」(起業したか)に変わったかのような中国の起業ブームの背景には、確かに大学生の就職難や過剰設備の削減に伴う失業などの現実問題がある。その一方、ポジティブな要因として、中国人の起業意識が高いことがあるのを強調したい。

 米アムウェイが発表した調査レポート「起業に関する意識―国際比較調査2015」によると、自分自身が起業意欲を持っている中国人の割合は60%超で、世界で3番目に高い。

 また、米バブソン大学や英ロンドン大学ビジネススクールなどの研究者らが行った国際調査「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター 2014」(Global Entrepreneurship Monitor 2014)では、18歳から64歳の中国人の中で、「職業として起業家は良い選択」に賛成する割合は65.7%で、米国の64.7%より高く(日本は31%)、起業をポジティブに捉える中国人が多いことが分かる。

 振り返れば、中国の過去30数年の経済成長を通じて、自らビジネスを始め、成功した企業家や富豪が多数輩出している。ベンチャーを立ち上げ、うまく行けば、大物企業家になれる。皆がボスになりたがり、成功を手に入れる夢を見てきた。

 78年の「改革・開放」以降の中国人起業家を時間軸ベースに見ると、大きく三代に分けられる。第一代は「改革・開放」直後の80年代から90年代前半までで、当時の「鉄飯碗」(割れないお茶碗の意味だが、転じて昔から安定と見られる政府部門や国営企業での仕事を指す)を思い切って捨て、豊かさを求めた起業家たちである。
              

 彼らは当時規制や法律がきちんと整備されていない時代背景の中で、見事に成長を遂げ、成功を手に入れた。

 第二代は90年代後半から00年前後までで、海外から帰国し、新たなビジネスに挑戦した帰国組の起業家たちである。とりわけ、情報通信技術(ICT)分野の起業では、海外のビジネスモデルを真似て、中国の巨大市場を攻略することで、成功を収めた人たちが多い。

 ICT大手BAT(バイドゥ、アリババ、テンセントの頭文字)3社の創業者を含め、帰国組でICT分野を制覇したこの第二代の起業家たちは時代の寵児となった。

 第三代は00年代以降に登場した「80後」(80年代に生まれ)、「90後」(90年代に生まれ)の若者が主役で、好きなことを実現しようと理想を追い求める起業家たちである。

 彼ら、彼女らは単なるビジネスモデルの真似より、最先端の技術をベースに、イノベーションを起こそうとしている。一夜でお金持ちになるより、イノベーションを起こして、より多くの人に豊かな生活スタイルを提供しようと高い志を持った起業家が増えてきている。

 すなわち、起業する人の意識や動機は、第一代の金銭志向から理想追求志向に変わりつつある。

 14年に出版された米国のピーター・ティール(起業家・投資家でトランプ大統領の政権移行チームの重鎮)とブレイク・マスターズ両氏の共著『Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future』(日本語版は『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』)は中国でも話題になっている。

 中国ではゼロから何かを生み出すイノベーションや起業が注目されている。「Zero to One」のような新たな挑戦が、中国のイノベーション力を高めるパワーであり、「Zero to One」を目指す起業家がどんどん生まれてくることが期待されている。
(文=趙瑋琳<チョウ・イーリン>富士通総研 経済研究所 上級研究員) 

【著者プロフィール】
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。


※日刊工業新聞電子版では「中国イノベーション事情」を連載中

日刊工業新聞電子版2017年3月22日

明 豊

明 豊
04月09日
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これまで中国の起業家といえば鄧小平が深圳を視察し唱えた「南巡講話」の影響もあり広東省が中心だった。北京やそのほかの都市への広がるのか。経済の成熟と無縁ではないだろう。

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