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中小企業のよろず相談所、利用者の8割超が「満足」は本当か

経営課題にワンストップで対応、相談対応件数が順調に増える
 中小企業・小規模事業者向けの経営相談所「よろず支援拠点」が、6月に開設から3年を迎える。あらゆる経営課題にワンストップで対応し、解決策を提案する機関として順調に相談対応件数が伸長。一方で、拠点間により対応力にバラつきがあるなどの指摘を踏まえ、体制強化を進めている。目指しているのは、ミッションの明確化や他の支援機関との連携推進による高い支援機能の発揮だ。

 よろず支援拠点は、国が設置している経営相談所。売り上げ拡大や資金繰りなどさまざまな経営課題について、地域の支援機関と連携しながら無料で対応する。

 中小企業の支援では、商工会議所や商工会など数多くの機関が存在している。こうした中、「単に他の機関へのつなぎ役となるだけでなく、専門性を持って対応する機関を求める意見があった」(中小企業庁経営支援部の飯田健太経営支援課長)ことを踏まえ、2014年6月に各地域で拠点開設を始めた。

 現在は、47都道府県すべてに拠点がある。さらに中小企業基盤整備機構が全国本部となり、各拠点に対するサポートなどを行っている。

 同拠点の実施機関となっているのは各地域の産業振興に関する財団法人など。中小企業診断士や金融機関のOBらを専任のチーフコーディネーターとして各拠点に一人ずつ配置しているほか、数人のコーディネーターを加え、チームとして相談に対応する体制を構築している。

 各拠点では相談対応件数が順調に増えている。売り上げ拡大や経営改善、創業に関する相談が多く、累計で約48万件に達した。

 相談件数の増加に対応し、体制の強化を推進してきた。第1期の14年度にはコーディネーターが281人でサテライト拠点はゼロだったのに対し、16年度はコーディネーターが557人、サテライト拠点の数が281カ所へ増加した。

 拠点の拡充に伴って顧客満足度も向上。利用した事業者を対象とする調査では、「満足」と「やや満足」を合わせた満足度が3年連続で80%を超えた。
               

問題点も散見


 高い顧客満足度を維持してきた一方で、地域によって対応力の質にバラつきがあることや、フォローの手薄さなどを指摘する意見がある。

 こうした現状を踏まえて議論が進んできたのが、拠点の大幅な拡充・強化策だ。ミッションや役割分担の明確化、客観的な評価基準に基づくPDCAサイクルの確立などが今後のポイントとなる。

 例えばミッションの明確化では、より専門性の高い提案を通じてさまざまな経営課題の解決を図る方針。また他の支援機関との連携強化を通じた相互補完によって、地域全体で最高水準の支援の実現を目指す。

 PDCAの確立では、高水準の実績を持つコーディネーターの行動基準をリスト化した「行動指針」を策定。評価の際にこの指針を活用し、数値に表れない部分についても評価する。

コーディネーター、日々奮闘


                  

 さらに関係者の役割を明確化。プレーヤーであるチーフコーディネーターとサポート役である実施機関の連携を円滑化し、効率的に運営できる体制を目指す。

 よろず支援拠点では、文字通り中小企業のあらゆる経営課題について、解決策を導くためコーディネーターらが日々奮闘している。

 東京・新橋に本部がある「東京都よろず支援拠点」では、金綱潤チーフコーディネーターを中心に13人体制でさまざまな相談に対応している。

 同拠点の優位性の一つが、行政機関や金融機関のほか、中小企業団体中央会や商工会議所といった他の中小企業向け支援機関が近くに存在していること。

 相談内容に応じてさまざまな専門家や機関に取り次ぐ仕組みを構築しており、金綱チーフコーディネーターは「この分野ならこの人に頼んだ方が良いなど、ネットワークを円滑に活用できるようになった」と胸を張る。

 業種が多岐にわたっていることも地域的な特徴といえそうだ。例えば東京・多摩地区ではモノづくり、板橋区では印刷業、大田区では下請加工の事業者が多数集積しており、相談内容もそれぞれの地域特性を反映しているケースが少なくない。

 実際のコンサルティングでは相談者とともにアイデアを練りつつ、売り上げ拡大や販路開拓を試みている。例えば売り上げ拡大に関する悩みを抱える飲食店に対しては、宅配業務を通じた新規の顧客獲得を提案。

 高層マンションの1階に店を構えている利点を生かして、「同じマンションの住民に煮物や茶碗蒸しなどを届けるようになった結果、店舗に客を誘導する効果が得られた」(金綱チーフコーディネーター)。相談にくる事業者は、事業段階もさまざま。中には、創業間もない時期に同拠点を訪れることがある。

 コーディネーターの一言が事業の方向性や将来性を大きく変える可能性を持つだけに、常に入念な準備とネットワーク機能の強化に力を注いでいる。

 「非常に大変な仕事だが、逃げずに受け止めることでコーディネーターとしての引き出しが増え、顧客満足度の向上にもつながっていく」(同)と話す。

 相談事業者の満足度に関する直近の調査では、「大変満足」と「やや満足」を合わせた評価が90%以上に達し、全国平均を上回った。

 今後の課題は相談者数の増加。16年度に約2500人を見込んでいる年間の相談者を3000人程度に増やす目標を掲げている。
(文=古谷一樹)
日刊工業新聞2017年3月27日
土田智憲
土田智憲 Tsuchida Tomonori かねひろ
事業承継の問題が、1.9%というのは肌感覚からすると少なく感じた。そもそも事業承継するためには、売上を上げたい、経営を改善したいという課題をクリアしなければ、というのも隠れているような気がした。

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