電力・都市ガス「10兆円市場」攻守は入れ替わるか

自由化1年の分岐点。エネルギー大競争時代が本番を迎える

 2016年4月の電力小売り全面自由化から、間もなく1年がたつ。時を同じくして都市ガスの小売り事業も全面自由化され、電力とガスの垣根を越えたエネルギー大競争時代が本番を迎える。電力小売りで都市ガス会社に奪われた失地を取り戻そうと意気込む電力各社を、都市ガス各社もガスと電力のセット割などで迎え撃つ。電力、都市ガス合わせて10兆円規模の小口需要家向け市場をめぐる攻防が始まる。 

 経済産業省所管の電力広域的運営推進機関によると、新たに自由化の対象に加わった一般家庭や小規模事業所で、電力の購入先を新規参入事業者に変更した需要家は、2月末時点で全体の5%に上った。

 東京ガスが1月末までに64万件、東京急行電鉄グループの東急パワーサプライ(東京都世田谷区)が2月末までに8万8000件と、顧客基盤が整っている都市ガス大手や電鉄系が、契約件数を着実に伸ばしている。東京ガスは2年目までの累計で、100万件の契約獲得を目指す。

 だが4月のガス小売り全面自由化後は、家庭向けの都市ガス販売で巻き返しを狙う電力各社に対し、都市ガス各社が守勢に回る。

 経産省が新制度に基づいて登録した「ガス小売事業者」で、家庭向け市場への新規参入を表明している12社(3月21日時点)のうち4社が、東京電力エナジーパートナー(EP、東京都港区)をはじめとする電力会社だ。いずれも都市ガスの原料になる液化天然ガス(LNG)を、火力発電の燃料として大量に購入している強みがある。

 また経産省の集計によれば、ガスの契約を切り替える需要家の事前申し込みが、3月10日時点で累計5万7792件と、全国の都市ガス利用者2900万世帯の0・2%に上った。

 7月に事業を始める東電EPが契約の受け付けを始めれば、切り替えが急速に進む可能性がある。東京ガスの広瀬道明社長は「全面自由化は、130年間続いたわが社の経営基盤を一変させる」と気を引き締める。

 電力、都市ガスの大手各社は電力とガスのセット割で安さを訴求する構えで、ガスを扱わない電力小売り事業者にとっては厳しい逆風となる。大手も激しい値下げ競争が予想される中で黒字を定着させるには、電力やガスの販売だけでなく、より収益性が高い商材・サービスの開発が課題となりそうだ。
                  

東ガス、100万件獲得へ地固め


 電力、都市ガスとも最大の激戦区である首都圏では、電力小売り事業で東京ガスが当初掲げた40万件の初年度目標を大きく上回る契約を獲得し、都市ガスで築いたブランド力や顧客基盤の強さを示した。

 同社は4月1日付で「電力本部」を新設し、2年目の累計獲得目標100万件達成への地固めを急ぐ。

 対する東電EPは液化石油ガス(LPG)販売の日本瓦斯(ニチガス)と都市ガス分野で組む。ニチガスは東電EPから都市ガスの卸供給を受け、東京ガスの現行料金より3・6%程度安い料金設定で、東京ガスの営業区域へ4月に進出。7月に参入する東電EPと合わせ、初年度15万件の顧客獲得を狙う。

 東京ガスも対策に余念がない。埼玉県を地盤とするLPG販売会社、サイサン(さいたま市大宮区)の都市ガス小売り事業参入に際し、都市ガスを卸供給する。ニチガス系の都市ガス会社と商圏が重なるサイサンの市場参入を後押しし、ニチガスに揺さぶりをかける狙いだ。

 一方、東電EPの小早川智明社長は「いずれ電気やガスを、単品で売る時代ではなくなり、電気やガスを組み込む格好で、より高付加価値のサービスを提供する仕掛けが必要になる」と指摘。省エネルギー関連の商材・サービスなど収益性が高い分野に事業領域を広げていく方針だ。

関電と大ガス、シェア争い激化


関電と岩谷の共同出資会社は23日にガスショップ旗艦店を開設

 関西の家庭向け電力小売り新規参入組筆頭は大阪ガス。3月8日現在で29万件の契約を確保した。続くのはジェイコムウエスト、ケイ・オプティコムの両通信会社、大阪いずみ市民生活協同組合も健闘する。強固な顧客基盤を持つ企業が契約を増やしてきた。

 契約件数720万件―。都市ガス小売り自由化では、大ガスの独壇場を関西電力が切り崩そうという全面対決の構図をみせる。

 全国で唯一、自由化初日から多数の契約の移動が見込まれる。すでに関電はガス小売りの自営に必要な熱量調整設備などのインフラ設備を備えており、テレビCMや街中の広告でガスブランド“関電ガス”を積極的に訴求する。

 関電は2000年から大口顧客にLNGやガスを販売し、その規模は都市ガス大手に次ぐ水準。家庭向け参入に際して、岩谷産業と「関電ガスサポート」を設立。販売・保守で盤石の体制を整えた。

 料金メニューの訴求では、電気とガスのセット割り引きや、生活サービスの提供など、関電と大ガスが互いを意識した攻防を繰り広げる。関電の岩根茂樹社長は「年度のなるべく早い時期に20万件を達成する」と示す。大ガスも守勢でなく、電気顧客獲得の好機と捉え“攻め”の姿勢だ。

日刊工業新聞2017年3月24日

杉本 要

杉本 要
03月26日
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 中部地域では電気の購入先を切り替える動きは低調だ。電力広域的運営推進機関のまとめでは、中部電力管内の新電力などへの切り替え件数は2月末時点で27万件弱。切り替えは16年3月時点の中部電の従量電灯や低圧電力の契約数約762万件のうち、約3・5%にとどまり、全国平均の5%を下回る。
 「付加価値の高いサービスを提供できている」。勝野哲中部電力社長は自信を深める。同社は電力自由化を機に家庭向けウェブサービス「カテエネ」などを大幅強化し、顧客のつなぎとめを図った。その結果、自由化後の新料金メニューの契約件数は9日時点で約112万件にまで増加。保守的とされる地域柄もあってか、顧客の囲い込みに一定程度成功したようだ。
 一方の新電力ではガス会社の動きが活発だ。東邦ガスは1月末時点で約2万件の電力小売り契約を獲得。5年で約8万件の目標を上回るペースで推移する。愛知県豊橋市や浜松市を中心とするサーラコーポレーションも、グループ会社を通じ2月末時点で1万3000件を獲得した。
 4月に始まるガス小売りの全面自由化では今のところ中部電力のみが参入予定。同社は1月にガス販売の申し込み受け付けを開始。2月26日時点で約7000件を獲得しており今後5年で20万件の獲得を目指す。

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