手順やこつをロボットと技術者が共有、次世代の技術革新へ

『ロボットがロボットを作る』技術だけでは不十分

 福島をロボット技術の世界的な発信地に―。装着型で身体機能を改善・補助・拡張・再生するロボット技術「HAL(ハル)」で知られるサイバーダインは、福島県郡山市に「次世代型多目的ロボット化生産拠点」を新設した。同拠点で何に挑戦し、どんな方法で福島の復興に役立とうとしているのか。山海嘉之社長に聞いた。

―福島に生産拠点を置いた目的は。

「福島県は東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の被害を受けた。福島の復興が日本全体で取り組むべき課題だ。ハルで培った人・ロボットの融合技術を活用すれば作業者とロボットが協働する新技術が構築できる。福島の拠点では次世代型のモノづくりに挑みたい。生産品目としてハルは部品点数が多くていきなりは難しい。構造が比較的シンプルな手のひらサイズの心電・動脈硬化計『バイタルセンサー』から始める」

―どんなモノづくりになりますか。

「『ロボットがロボットを作る』といった程度のルーチンをこなす技術だけでは、生産で革新を起こすには不十分だ。技術者が生産に携わり経験を積んで工夫しないと、ロボットも進化せずフロントランナーにはなれない。そこで、ハルの技術を使い暗黙知をデータ化し、手順やこつをロボットと技術者が共有できるようにする。ハルは脳から身体への信号を読み取る。いままでビデオなど外側から捉えるしかなかった熟練者の暗黙知が、脳の信号など内側からのデータも組み合わせることができ、より詳細になる。福島で人とロボットが協働する次世代型生産技術をつくり上げ、世界にその仕組みを輸出したい」

―すでに挑戦を開始したと聞きました。

「バイタルセンサーが医療機器の認可を受けてからが本番なので、いまは要素技術や手順などの検証を進めている。当社の搬送ロボットなども連動させる。センサーやハルにとどまらず、どんな製品の生産にでも活用できる仕組みにしたい。脳からの信号など内側から得られる生体データ活用を、フェーズシークエンスという動作の基本単位を分析・合成する手法と組み合わせて活用する。これも革新技術であり、同様の技術が医療用のハルにも機能再生・改善の治療技術として生かしている。これを作業者の暗黙知継承に応用する」

―サービス系ロボットの先駆者として、サービスロボット普及への課題をどう認識していますか。

「サービスロボットが使いやすく進化する中で、例えば家庭で使えるロボット化された呼吸器や、通院に利用し院内の医療機器に影響を与えないモビリティーのように『メディカルでの利用なのか、生活での利用なのか』の区別が難しいケースが増えてくるだろう。メディカルと生活では、同様のサービスロボットでも、対応する規制が異なり、用途によって所轄官庁も異なってくる。医療か非医療かの線引きが悩ましい場合には、当局側での『お見合い』現象も懸念される。そのため、両者にまたがる視点が必要になるだろう」

【記者の目/生産革新、人と技術の調和がカギ】
IoT(モノのインターネット)やロボット技術を使い生産ラインを自動化する試みが急速に広まる。だが、現場で作業する技術者による工夫の余地が残らないと、新規的な事柄を生産現場から生み出せなくなると山海社長は警告する。生産革新への伸びしろをどれだけ残すか、そのバランスが全製造業の課題だろう。
(文=石橋弘彰)

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日刊工業新聞2017年3月24日

昆 梓紗

昆 梓紗
03月24日
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暗黙知の見える化は作業をロボットに代替するためだけでなく、「匠の技」と呼ばれるものの人への継承についても有効です。

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