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大手企業の賃上げに不満の安倍さん

「もうすこし力強く」
大手企業の賃上げに不満の安倍さん

17日の働き方改革実現会議(首相官邸公式ページ)

 安倍晋三首相は16日、都内で開催された日本商工会議所の通常会員総会であいさつし、2017年春闘について「昨年に続き企業収益が過去最高水準にある中で、欲を言えばもう少し力強い賃上げを望みたかった」と語った。大手企業の集中回答が15日に終了し、今後は日本の雇用数の約7割を占める中小企業の賃上げ交渉に焦点が移る。安倍首相は「大企業との格差が縮小するような賃上げができるよう、政府もしっかり応援する」と前向きな対応を要請した。

 日商の三村明夫会頭は冒頭あいさつで、安倍政権が重要課題と位置づける働き方改革について「現場の実態を踏まえた丁寧な議論と合意形成」を求めた。長時間労働の是正では、経団連と連合が合意した罰則付き時間外労働の上限規制の導入に「異論はない」としながらも、「業種・職種の特性などを踏まえた柔軟な制度にするべきだ」と述べた。同時に、長時間労働の背景にある商慣習の見直しや取引条件の適正化に向けた取り組みにも十分目配りするよう求めた。

日刊工業新聞2017年3月17日



「経済の好循環」強い思いは…


 「少なくとも前年並みの水準の賃上げを期待したい」。2016年の「働き方改革実現会議」で、議長を務める安倍晋三首相は経営側に賃上げを迫った。その背景には、今年で4年目となる官製春闘で個人消費の向上を促し、経済の好循環を確固たるものにしたいとの強い思いがあった。 15日、集中回答日を迎えた17年春闘は、モノづくり労組で構成する全日本金属産業労働組合協議会傘下の自動車、電機などの主要産別は4年連続でベースアップ(ベア)を確保した。ただ、世界経済の不透明感からトヨタ自動車日立製作所など大手のベア額は前年を下回る結果に終わった。

 一方、電機や機械などの中小製造業労組が多く加盟するJAM(ものづくり産業労組)の平均賃上げ額は1610円。トヨタや電機大手を上回った。

 JAMの賃上げ要求は格差是正分も含め6000円。「格差是正と公正取引ルールの確立が今春闘の両輪」(宮本礼一会長)とサプライチェーン全体での付加価値配分の見直しを訴えた。宮本会長はこれから交渉が本格化する中小企業について「人手不足がさらに深刻。先行グループを上回る回答に向けて全力を挙げる」と、労働力不足をテコに賃上げを迫る考えだ。 

 4年目の官製春闘は失速気味ながら、政府が進める働き方改革への取り組みは進んだ。「同一労働同一賃金」や長時間労働是正が労使交渉の場でも議論され、電機連合は労使共同で長時間労働是正などを目指す「労使共同宣言」を出した。サービス残業が常態化するヤマト運輸の労組は、引き受け荷物の抑制を経営側に求めた。

 処遇改善も進む。トヨタは子育て支援を積み増した。非正規社員の日給も150円引き上げ、今後の処遇や制度について議論する労使専門委員会を設置する。他の自動車メーカーやコマツ、NTNなども非正規の処遇改善を回答に盛り込んだ。

 今後の焦点は労働者全体の7割弱を占める中小企業の賃上げ原資の確保と非正規の賃上げができるかだ。神津里季生連合会長は「底上げ・底支え」「格差是正」を春闘のスローガンに掲げているが、中小企業では労組結成が困難で、ベアどころか定昇という概念さえない。ただ一部では確実に前向きな取り組みが始まっている。
(文=八木沢徹)

日刊工業新聞2017年3月16日


神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
今年の春闘では大手企業の賃上げの勢いに陰りが見られます。安倍首相のこの発言は前日に行われた経営側からのの集中回答の状況を受けてのものです。

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