スプーン収集30年。800本に刻まれたブリヂストンタイヤとの軌跡

文=ブリヂストンフェロー・山口裕氏

 人それぞれ、思い出の品がある。私にとってのそれは、スプーンだ。スプーン集めが趣味で、世界各国のスプーンを800本近く集めている。

 スプーン集めを始めたのは30年以上前だ。当時私は、欧州車向けタイヤの開発を担当していた。しかし、当社の欧州での知名度はほぼなかった。開発するには現地を見るしかないが、簡単に出張許可は下りない。

 休暇を使ってドイツに出かけ、ロマンチック街道を車で走った。街道の終点、フュッセンを訪ねると、街の紋章を配したスプーンを見つけた。「面白い、記念になる」と購入した。コレクションの1本目だ。
 
 ドイツのタイヤや道は日本と異次元だった。現地での開発が不可欠だとの思いを強くした。会社に打診を続けた結果、ドイツに拠点ができ、私が赴任。路面の特徴を知ろうと、週に3000キロメートルは車で走り、行く先々の街でスプーンを買った。

 仕事で訪れた街でもスプーンを買った。特に思い出深い3本がある。1本目はヴァイザッハで買ったスプーンだ。この町に開発拠点のあるポルシェにタイヤを納めたいと考え、3年間この町に通った。努力が実った時のうれしさは、スプーンを見ると今でも思い出す。

 2本目はサーキット「ニュルブルクリンク」の紋章入りだ。タイヤ開発にはサーキット走行が不可欠。だが、ニュルブルクリンクは企業のテストカーと地元の一般客が交じって走る。テストカーは高速なため、コースを借り切らないと危険だった。地元の人たちと協議を重ねて協力を得た。彼らの協力がなければ開発が進まなかった。

 3本目は京都で買ったスプーン。ドイツ時代のアイデアを形にしたタイヤを履き、妻に京都までテスト運転してもらった。「今までと感じが違う」との妻の声に、これはいけると感じた。そのタイヤは「プレイズ」として商品化した。

 行きたい街はまだある。タイヤの接地面をフットプリント(足跡)という。訪れた街でスプーンを集め、自分のあゆみをフットプリントとしてもっと残したい。

日刊工業新聞2017年3月17日

昆 梓紗

昆 梓紗
03月17日
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この記事は「週末は別人」という経営者が趣味を語る連載の1回なのですが、今まで読んだ中で一番興味をそそられる趣味でした。もっと詳しく話が聞きたいです…

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