ライフネット生命、出口会長退任へ。イノベーターの源泉をたどる

書窓から見る形にとらわれない柔軟な姿勢

 ライフネット生命保険は15日、創業者の出口治明会長(68)が6月25日開催の株主総会をもって退任すると発表した。取締役を退く同日以降も出口氏は次の若手の育成や広報活動に携わる。

 インターネットで生命保険を身近な存在に―。安くてシンプルな商品が売りの“ネット生保”。この草分け的存在となったのがライフネット生命保険。創業者は日本生命保険出身の出口治明氏と岩瀬大輔氏の年齢差約30歳のコンビ。

 出口氏はもともと、生保業界では有名人だった。業界最大手の日本生命在籍時はエリート街道を走り、金融制度改革で旧大蔵省と折衝を重ね、95年に56年ぶりとなる保険業法改正につながる礎を築いた。その後、ロンドン現地法人社長、国際業務部長と国際化に向けた取り組みで手腕を発揮してきた。

 ただ、金融危機をきっかけに会社の経営方針が国内重視にシフトしたことで、営業部門に異動。ネット生保のアイデアを考案したのは、この時だった。「高コストの営業職員の販路をネットに切り替えれば、安価な保険料で広く普及するのでは」。実現の機会はなかったが、当初は「e―life」として構想を温めてきた。

 ところが03年、グループのビル管理会社に出向を命じられた。実質的な左遷。当時は「もう生保業界に戻ることはないだろう」と出口氏は覚悟。自身がこれまで業界で培ってきた知見を本にまとめ、これを遺書としていったん、業界から身を引くことになった。

 06年に転機が訪れた。知人を介してある投資家と知り合ったことで、ネット生保立ち上げの話が再びよみがえる。この投資家を介して現社長の岩瀬氏とも出会った。頭に描いていたベンチャー企業のプロジェクトが動きだした。

 そこから2年間、金融庁との折衝や出資金集めなどの準備を経て08年に創業を迎えた。

 出口氏の思考と行動力はどこからくるのか。過去の「本」に関するインタビューから振り返る。
 

「本がないと生きられない」


 若い頃から、本を読まないと生きていけなかった。本を読むために時間を捻出するのが大変だった時期もある。

 かつて在籍した日本生命保険時代に大蔵省(現財務省)との窓口である「MOF担」を務めていた時代も含め、ゴルフは若い頃からプレーしない。

 平日は午前零時前に帰宅することはなかったので、土日がゴルフでつぶれたら、本を読む時間がなくなると思ってね。

 現在の帰宅は23時頃。それから1時間程度、本を読む。電車での移動時間など、すき間時間も本を捲る。夢中になって1週間に2、3回は乗り過ごしてしまうほど。土日も講演活動や仕事がなければ、読書に充てる。1週間に4―5冊は読む。

 本の虫になったのは幼稚園の時から。田舎で育ったので空をよく眺めていたが、太陽が落ちてこないのが不思議だった。両親に尋ねたらうっとうしがられて、本を渡され、本のおもしろさを知った。

 中学生時代からは活字中毒。学校の図書館の本を端から順番に1日2―3冊借りて、読んでいった。卒業までに全て読んだのではないか。

 当時も今も、ジャンルは問わない。哲学、心理学、生物学、美術、歴史など。ビジネスでは、国語ではなく算数、つまり論理的、実証的な判断が重要だ。

 客観的なデータに基づかなければ相手との対話も不可能だ。こうした思考を習得したのも、ジャンルを特定せずに、さまざまな本を読みあさったことが影響しているだろう。

 小説も好きな作家はたくさんいる。トーマス・マンも好きだし、塩野七生も好き。マルグリット・ユルスナールの『ハドリアヌス帝の回想』は繰り返し読んだ。

 今年読んだ本の中で、一番面白い本は小坂井敏晶の『社会心理学講義』。社会は同一性と変化に支えられているが、これらは本来、相反する要素。なぜ両立できるのか。自明だと思われがちな疑問に正面から挑んだ骨太の一冊だ。

 会社もまとまりが必要な一方、変革がなければ成長できない。全てのビジネスマンにお薦めだ。かつては欲しい本を全て買っていた。初版の本を集めたり、本を読む前に手を洗ったり。こだわりもあった。社宅の廊下にまで本があふれたが、ロンドンに転勤する際に、思い切って大半は売った。

 今は図書館を利用しており、借りられないときに自分で買っている。(当社はインターネット専業の生命保険だが)本の購入は書店とネットの割合は半々だね。

【余滴/マンガにも造詣】
 読書についての講演も多い。ヘロドトスの『歴史』など歴史の本についての発言が目立つが「本当に何でも読む」と語る。日本生命時代のロンドン赴任に際しては、全ての本を売り払ったが、手元に残した数少ない本が長谷川町子の『いじわるばあさん』と『サザエさん』。「長谷川町子を超える漫画家はいない」と言い切る。実は『ゴルゴ13』や『進撃の巨人』も手に取るなどマンガにも造詣が深い。形にとらわれない柔軟な姿勢が生保業界の異端児の源泉か。
(文=栗下直也)

日刊工業新聞2013年8月26日「書窓」



「仕事は“6勝4敗”でいい」


 ―「仕事は“6勝4敗”でいい」とはどんな意味ですか。
 「職場に漂う閉塞(へいそく)感に負けず、若手社員にやる気を持って仕事に取り組んでほしいというメッセージだ。小さなミスや取りこぼしで責められる。これでは萎縮し守りに入るばかりで、活躍の場を無くすことになる」

 「一方で攻めるにもビジネスに完全勝利はありえない。また、交渉する上で完膚無きまでに相手を負かす必要はない。いい意味で気楽に構え、仕事に対して前向きに余裕を持って取り組んでほしいという思いを込めた」

 ―職場の閉塞感は何が原因でしょうか。
 「国内競争力の低下に合わせ企業に余裕が無くなったことが原因だ。21世紀に入るまでの日本は経済成長が続き、企業にも人員や時間にゆとりがあった。昔は職場で嫌なことがあっても先輩が後輩を赤ちょうちんに連れだしフォローして公私のアドバイスをした」

 「それが景気後退や業績低迷でコンスタントな新卒採用ができなくなった。若手がすぐ下の後輩の面倒を見る、良き時代の日本型の育成システムが機能しなくなった」

 ―「上司とうまくつきあえる」「部下の力を引き出せる」などサラリーマン社会の行動原則を伝えています。
 「バブル崩壊後の95年あたりを境に従来の日本型の雇用制度が崩れた。今、まさに壁に直面しているのがそのころ入社し、現在は課長職にある40歳前後の世代だ」

 「自分たちが日本型育成システムで育てられず、部下を持ってもどうしてよいか分からない。飲みにも誘えない。相談しあえる職場環境が少なくなりメンタル疾患など新たなひずみもでてきた」

 ―閉塞する日本社会が立ち直るにはどうしたらいいと考えますか。
 「国際競争力は低下しているが、はい上がるしかない。自分たちで反転させるチャンスだと前向きにとらえてほしい。例えば環太平洋連携協定(TPP)の参加是非について、日本は交渉力が無いから参加しない方がいいという考え方もある」

 「だが、初めから勝負を投げ出すようでは国際競争には勝てない。交渉力が足りなければむしろどんどん外へ出て磨き、克服するべきだ」

2012年11月5日「著者登場」

明 豊

明 豊
03月16日
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出口さんには一度もお会いしたことがない。今度じっくり最近の本についてインタビューしてみようと思う。

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