国の研究プロから実用化へ。カーボンナノチューブの採用続々

三菱電は高級車載スピーカーに。NEDOは再び基盤技術に資源投入

 カーボンナノチューブ(CNT)の実用化が進んでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」に参画する企業が、製品化に向け一斉に試作品を完成させた。CNTの機械特性や電気特性を生かして、自社の製品を進化させている。

 三菱電機は高級車載スピーカーの振動板にGSIクレオス製のCNTを採用した。振動板にCNTを練り込むと振動特性が向上し、中低音域がクリアに再現
できるようになった。オーディオブランドである「DIATONE」(ダイヤトーン)の70周年の旗艦モデルとして発売され、製品の浸透期にある。

 東レはCNTで薄膜トランジスタ(TFT)を成形し、電子移動度が塗布型TFTとしては世界最速レベルの1ボルト秒当たり81平方センチメートルを実現した。半導体CNTの純度を9割以上に高めており、導電性高分子でCNT同士を結びつけることにより、導電性を持たせた。

 TFTを高速で応答させられるため、極超短波(UHF)帯の無線識別(RFID)タグに利用できると見込む。NEDOの小久保研プロジェクトマネージャーは「5メートル離れた場所からでもタグを認識できれば物流コストを大幅に下げることができる」と期待する。

 また、古河電気工業は信州大学などと共同でCNTだけでできた線材を開発。絶縁材で被覆しており、電線として電気絶縁や摩耗、燃焼などのJIS規格を取得した。銅線に比べて体積あたりの抵抗は3・5倍だが、重量は5分の1になる。CNTは熱伝導性が高く、大電流で発熱しても熱を逃がしやすい。

 線材の製造プロセスは炭素原料を供給し続ければ、線材を紡ぎ続けることができる。100メートル以上の継ぎ目のない線材を作製できた。自動車ハーネスや送電線の軽量化を目指している。

 これに対し、日本ゼオンはCNTを利用した高性能の熱輸送シートを開発した。中央演算処理装置(CPU)から放熱フィンに熱を伝える熱界面材として利用する。熱抵抗が1ワット当たり0・05度Cと低く、従来品の2倍近い性能を確認した。4月末までに製造ラインを立ち上げる。

 NEDOはCNT自体の開発と並行し、CNTの応用製品の開発を進めてきた。CNTの加工技術や安全対策など、裏方の技術が先行してきたが、開発プロジェクトの最終年度に参画企業が一斉に製品の形として仕上げた。ただ商品としてはまだ産声を上げたばかりのものが多い。

 NEDOは再度CNTの基盤技術に開発資源を振り向ける。小久保プロジェクトマネージャーは「人工知能(AI)技術などを活用して開発をもう一段加速させたい」という。炭素材料は計算機科学やデータ科学と相性が良い。性能を予測しながら開発できるようになる。各企業が続ける製品開発に基盤技術を反映させ、さらなる加速を目指す。
三菱電の車載スピーカー。振動版にCNTを利用

(文=小寺貴之)

日刊工業新聞2017年3月13日

日刊工業新聞 記者

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03月16日
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ナノテクは目に見えませんが、製品としてモノになると説得力が増します。NEDOが開発を促し、技術者はモノに仕上げて経営を納得させる。だから次の開発に挑戦できる。この循環を回せている研究分野は多くありません。CNT業界は経営や霞ケ関とうまくコミュニケーションできていて、継続的な研究投資を集められているのだと思います。
(日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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