人体改造を受け、スペース・コロニーの住人になりたいですか?

<情報工場 「読学」のススメ#26>「ポストヒューマン」の技術が「宇宙植民」への道をひらく!?

アメリカでは有人宇宙旅行を実現しようとする動きが


 多くの日本人は忘れているかもしれないが、2014年12月3日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」は、今も宇宙空間を航行中だ。同機は、トラブルによる交信不能状態を乗り越えて2010年6月に帰還し、日本中を熱狂させた「はやぶさ」の後継機。初代と同じく小惑星からのサンプルリターン(宇宙空間でサンプルを収集して持ち帰ること)を目的とする無人機だ。今回は地球と火星の間にある小惑星「リュウグウ」が目的地で、2018年夏に到着予定。2020年末になるとされる帰還時には、再びブームとなるのだろうか。

 宇宙もののSF映画やアニメでは、人間が宇宙船に乗り込む「有人飛行」が描かれるのが普通だ。だが現実の宇宙開発は「はやぶさ」や「はやぶさ2」のような、生命にかかわるリスクの少ない無人機や人工衛星によるものが一般的になっている。

 しかし、少なくともアメリカでは少々様子が変わってきているようだ。ドナルド・トランプ大統領は、2017年1月20日(現地時間)の就任演説で、今世紀末までに太陽系の全惑星を有人探査するという宇宙政策を掲げた。NASA(アメリカ航空宇宙局)も、2019年までに月軌道の有人飛行を実現する考えのようだ。さらに、それ以前に、イーロン・マスク氏率いるスペースX、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が立ち上げたブルーオリジンといったベンチャーが、有人宇宙旅行の実現をめざしたビジネスを始めている。

 明治学院大学社会学部社会学科の稲葉振一郎教授は、著書『宇宙倫理学入門』(ナカニシヤ出版)で、宇宙開発・宇宙旅行などに関わる「倫理」の問題を論じている。同書で稲葉教授は「リベラリズム」に立脚し、「社会全体よりも個人の自由選択が優先される」という価値観を前提としている。
 


自分の身体を改造するのに抵抗がなくなれば宇宙に出る人が増える


 さて、無人探査を中心とした宇宙開発・研究を行うJAXAだが、有人、しかも「宇宙植民」をも視野に入れた構想を描く職員もいるそうだ。エンジニアの野田篤司氏だ。彼は、自然軌道をたどる小惑星を掘り抜いてスペース・コロニー(宇宙植民地)とするというSFのような構想を発表している。

 「宇宙植民」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。フロンティアスピリットにあふれる前向きなものの他に、奴隷のような苦役をイメージする人もいるのではないか。空気も水も、もちろん緑もない岩だらけの惑星の上で汗をかきながらツルハシを打ちおろすような。その通りではないのだろうが、過酷な環境にならないと言ったら嘘になるだろう。

 仮に宇宙植民が実現して人間が小惑星のコロニーに定住するようになるとする。当然、彼らを取り巻く環境は地球上とはまったく異なる。適応するには、身体を作り変えざるを得なくなるとも考えられる。遺伝子操作、サイボーグ化とまではいかなくとも、環境に合わせて自ずと身体は変わっていく。

 それがわかったとき、自分から進んでスペース・コロニーの住民になろうという人がどれだけいるだろうか。利便性が高く、過大な望みを抱かなければそれなりに幸せに暮らせる地球の生活を捨ててまで新天地で新たな人生を歩もうとする人は、どうしたって少数派だろう。かといって強制的に、あるいは社会的な圧力で宇宙に送り込むのはリベラリズムに反するし、それこそ奴隷そのものだ。

 だが稲葉教授は、ある条件が満たされるのならば、自ら進んで植民者になろうとする人が増えるのではないかと仮説を立てている。「一定以上の人が自分の身体を作り変えている社会が成立する」という条件だ。つまり、身体を作り変えるのに抵抗のない人が多くなれば、宇宙空間で暮らすハードルも下がるということだ。

 そういった社会は「ポストヒューマン」と呼ぶことができる。今以上にサイボーグ技術やAI(人工知能)が発達すれば、一部でも自分の身体を改造し、必要な能力を高めようとする人が増えるかもしれない。そうなれば、有人の宇宙開発も活性化していくということだ。

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冨岡 桂子

冨岡 桂子
03月11日
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イーロン・マスク氏は、昨年、メキシコでの国際宇宙会議(IAC)で火星への移住という壮大な構想を語りました。その中で「火星への最初のミッションではかなり死ぬ確率が高い」が、「それはどうにもならない」と言っています。火星への航行中、例えば、何らかの事故により必要な食糧などがなくなる究極な状況になった場合、乗組員は生き延びるためにどうするのか。人間がサイボーグ化する是非を議論するのは遠い将来のように感じられますが、イーロン・マスク氏が目指している計画が予定通り実行されれば、宇宙を開拓する際の「命」について、私たちは意外と早く考えることになるかもしれません。

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