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国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業「ミュシャ展」

国立新美術館(六本木)にて6月5日(月)まで開催
国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業「ミュシャ展」

どうやって大きな絵を設置したか――その答えはミュシャ展HPを

 ミュシャが故郷への強い想いから晩年の約16年をかけて描いた超大作《スラヴ叙事詩》がチェコ国外では世界で初めて、全20点まとめて六本木の国立新美術館開館にて公開中だ。

 「本当に長い間企画をし、準備を重ねてきた」とは本橋弥生・国立新美術館 主任研究員。

 ミュシャ(1860-1939)――現地の発音でムハ――は、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家の一人だ。モラヴィア(現在のチェコ共和国)に生まれ、27 歳で渡仏。絵を学びながら貧しい生活をしていたが、34歳の時にサラ・ベルナール主演の舞台ポスター《ジスモンダ》を手がけたことをきっかけに一躍脚光を浴び、時代の寵児として活躍するに至った。

展覧会場の様子

 ゆるやかな曲線と美しい女性を描くイメージが強いミュシャだが、チェコの郵便切手や新聞切手、コルナ紙幣、プラハ市民会館、パリ万博博覧会「ボスニア・ヘルツェゴビナ館」……など祖国を想い、発展に貢献する作品を随所に残している。特に切手や当時の警官の制服などは、無料で請け負ったそうだ。

 チェコ本国でも常設展示されていないという《スラヴ叙事詩》は、スラヴ民族の歴史をたどった、縦6m×横8mに及ぶ巨大な油彩絵画の連作でまさに「大作」。

 3世紀頃に始まる《原故郷のスラヴ民族》から始まり、キリスト教の精神、宗教改革者であるヤン・フスの姿など中世まで「強いスラヴ民族」の姿が描かれ、続いてハプスブルグによるヨーロッパ勢力図の変化、1620年プラハ市内でドイツ騎士団と戦い、それ以降の弾圧の時代。そして《スラヴ民族の賛歌》へと繋がっていく。

展覧会場の様子(「スラヴ民族の賛歌」)

 争いばかりの歴史的背景だが、ミュシャの絵に「戦い」が直接描かれることはあまりない。

 《グルンヴァルトの戦いの後》のように「後」の光景であったり、または《ニコラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防戦》に見られる「勝者であるにも関わらず、戦いの空しさに苦悩した王の表情」であったりする。

 「ミュシャは心から平和を愛した人だった」とその意味をヴラスタ・チハーコヴァー(美術評論家・ミュシャ展共同監修者)は説く。

 展覧会ではその他、ミュシャが時代の寵児となるきっかけになった《ジスモンダ》などアール・ヌーヴォー作品を含め約80点を紹介し、《スラヴ叙事詩》を描くにいたるまでの足跡を辿っている。

 来年は日本とチェコ国交回復60周年を迎える記念の年だ。

 作曲家のスメタナやドヴォジャーク、作家のカレル・チャペック、ヤロスラフ・ハシェック、画家のミュシャ、そして建築家アントニーン・レーモンドなどの作品を知っている人は多いと思うが、これを機に「チェコ」、そしてミュシャという画家を見つめなおす機会にも良いかも知れない。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今回の展示を通して「ヤン・フス」がどれだけチェコでは英雄なのかを知る事が出来ました。 チェコの有名な物・有名な方は数多といらっしゃいますが、個人的にはヤン・シュヴァンクマイエル(芸術家というかアニメーターというか)が一番推しです。展覧会場のお土産コーナーにはチェコアニメ「クルテク」(もぐらの…)とミュシャ展のコラボレーション商品が。若干無理があるのでは、と思ったのは内緒です。

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