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海水を使った藻類のバイオ燃料、その大きな可能性とは

Jパワーの開発が本格化。CO2排出せず安定生産が可能
海水を使った藻類のバイオ燃料、その大きな可能性とは

若松研究所では直径40メートルの屋外培養装置で微細藻類を生産している

 Jパワーが北九州市若松区の若松研究所で進めている、微細藻類を利用したバイオマス燃料「グリーンオイル」の研究開発が本格化している。すでに直径40メートルの屋外培養装置に加えて、抽出装置などの一貫生産プロセス設備も完成。年間生産性の評価を始めた。二酸化炭素(CO2)排出量が少ない、次世代のエネルギーとして期待される。

 Jパワーが開発しているグリーンオイルは、海水中の藻類から油を抽出する。機能性物質や化成品原料のほか、将来は自動車や航空機の燃料にまで利用が想定されている。

 同社は石油や石炭といった化石燃料の代替品として、2008年にグリーンオイルの研究開発を始めた。競合他社も類似品の開発を進めているが、すべて淡水中の藻類から抽出する方法で、海水を使うのは同社だけだ。

 微細藻類から抽出した油を燃料に転用する技術は、ドイツが第2次世界大戦中に実証し、その後もオイルショックなどを受けて数度にわたり実用化の機会があった。だが、技術とコストの両面でハードルが高く、量産できなかった。

 同社は独自に収集した約900株の藻類から、成分がディーゼルエンジン用の燃料(軽油)に近い、九州南方に位置する奄美大島のサンプルを選定。「ソラリス株」と命名して培養試験を始めた。その後、ソラリス株が低温に弱いことが分かり、冬場の利用を想定した低温に強い北九州のサンプルも取得。「ルナリス株」と名付けて、年間を通じた一貫生産性の評価に取り組んだ。

 バイオマス燃料は穀物や間伐材が一般的だが、これらは有限。しかし、微細藻類は水中や土中に数多く存在し、環境を破壊せず年間を通じて安定生産が可能になる。また、生物のためCO2を取り込む光合成を行う特性があり、生産工程で風力などの自然エネルギーを活用すれば、ほぼCO2を排出せずに生産できる。

 年間を通じた培養試験は、14年度に10日間の培養で1リットル当たり0・16グラムの収穫(藻体収量)に成功。若松研究所内には直径10・20・40メートルの各培養装置のほか、天然の海水を取水する設備、抽出塔、溶媒回収などの生産プロセスが整っており、安定した藻体収量と、用途の開発が計画される。
(文=大神浩二)
日刊工業新聞2017年3月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
開発を主導するJパワーの松本光史バイオ・環境技術研究グループ課長は「安定生産や価格など課題は多く、実現にはまだ時間がかかる。だが、炭素循環社会へ貢献する製品として実現したい」と期待する。30年度には、全国で数平方キロメートルの培養面積確保も見込んでおり、量産化に向けた作業を急ピッチで進めている。 (日刊工業新聞北九州支局長・大神浩二)

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