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ドイツvs米国―日本は標準化のルール作り、デファクト競争に乗り遅れてしまうのか

連載バックナンバー「つながる工場(2)」July.2014
ドイツvs米国―日本は標準化のルール作り、デファクト競争に乗り遅れてしまうのか

自動車業界では特許や著作権の開放が進む。ホンダはコンセプトカーのデータを公開

 ドイツが「インダストリー4・0(第4次製造業革命)」で最重要テーマとしているのが「標準化」。製造工程と統合業務パッケージ(ERP)が直結し、多品種をリアルタイムで自動生産するには、工場内の各機器の制御や外部との通信ネットワークでオープンな技術が欠かせない。

 【FAの頭脳】
 FA(工場自動化)システムの頭脳であるプログラマブルコントローラー(PLC)。国内PLC首位の三菱電機はプログラミング言語に日本独自の「ラダー」を使っている。信頼性や安定供給を優先しているためだ。日本企業の機器はいずれも「“閉じられたネットワーク”の中では極めて優秀に動作する」(国内のFA大手幹部)。

 しかし、国際標準という視点で考えれば、その状況が不利に働くかもしれない。欧州は国際標準化機構(ISO)などが策定するデジュール(公的)標準を重視する。これまでも車載LANなどの規格争いでは常に欧州が主導権を握ってきた。PLCのプログラミング言語の国際標準は「IEC61131―3」で、現状はドイツ企業のソリューションが主流だ。

 【革新の妨げ】
 日本の経営者で標準化に最も知見を持つ三菱電機の野間口有相談役によると、「ドイツのシーメンスなどは(標準化を)経営戦略の中枢に据えることが自然にできている」と話す。生産や調達などさまざまなシステムの統合を考えるのは現場担当者や担当役員ではなく、経営トップの意識と決断にかかっている。

 6月、電気自動車(EV)大手の米テスラモーターズは保有する約200の特許を公開すると発表した。イーロン・マスク最高経営責任者は「特許は大企業が自社を防衛する道具になり技術革新の妨げになる」という。米国ではIT業界に代表されるように、自由競争で勝ち残った企業がデファクトスタンダード(事実上の標準)を握る。
 
 【知財の開放】
 テスラの狙いはEVの普及にある。全世界における自動車販売は年間約1億台だが、EVの割合は1%にも満たない。ほかの大手自動車メーカーがもっと参入すれば充電インフラの整備も進む。注目すべきは、テスラは特許権を行使しないだけであって、放棄したわけではないこと。「知的財産の開放は、絶妙なさじ加減に映る」(国内完成車メーカー幹部)。
 
 「日本のモノづくりにとって素晴らしい試みだ」(原雄司ケイズデザインラボ社長)―。2014年1月、ホンダが過去のコンセプトカーの外観デザインの3D(3次元)データを公開したことが、3Dプリンター関連の企業を中心に大きな話題になった。将来を担うデザイナーやエンジニアを育てることに役立つと同時に、ホンダが新しい「製造業のカタチ」を模索しているようにみえる。
 
 3Dデータはインターネット時代の著作権ルールの普及を目指す国際的な非営利組織「クリエイティブ・コモンズ」の基準に沿っている。オープンかクローズかは必ずしも対立軸ではない。ただ標準化に対して受け身の姿勢では、技術のフロンティアが拡大しているモノづくりのイノベーション競争に乗り遅れる。
日刊工業新聞2014年07月11日 1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ドイツは国際電気標準会議(IEC)の議論を主導している。米国ではGEを中心にプラットフォーム作りが進んでいる。アプローチはそれぞれ違うかもしれないが、双方ともまず利用における自分たちに有利なテクノロジーの「規制」を作るだろう。「出来上がった規制の中でやって下さい」となった時に日本は手遅れになる。早めに日本もコミットしていかないと。

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