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シャープ、東証1部復帰。経営者に見る電機業界の栄枯盛衰

10年前、東芝と戦略提携を結んだが…
シャープ、東証1部復帰。経営者に見る電機業界の栄枯盛衰

シャープの片山社長(左)と東芝の西田社長(2007年12月21日当時)

 シャープは7日、東京証券取引所第2部から1部へ1年4カ月ぶりに復帰した。親会社の台湾・鴻海精密工業の下、順調に業績が回復している。同日、東証で会見した戴正呉社長は「1部復帰の目標をようやく果たせた」と述べた。一方で次期社長候補について、2018年6月末までに「共同CEO(最高経営責任者)」を選び権限の一部を委譲する方針を示した。「必ずしも社内からではない」とし、鴻海から送り込む可能性も残した。

 シャープは今後、鴻海とともにスマートフォン用の有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーを展開する。

 同日、スマホ用6・18型有機ELディスプレーを12月下旬にサンプル出荷すると発表した。スマホ向け有機ELは、韓国サムスンがシェアを独占する。シャープはサムスンの最新機種と同様、「3K」と呼ばれる高精細を実現するとともに紙のように曲がるパネルに仕上げた。

 戴社長は、サムスンと「戦う気はない」としつつ、性能は同社を強く意識したものになった。

 シャープと鴻海は、ジャパンディスプレイ(JDI)などへの資本参加に意欲を示してきた。戴社長は今後、JDIやその関連会社で、有機ELディスプレーを手がけるJOLED(東京都千代田区)に技術や資本の提携といった“日の丸連合”の形成を働きかける考え。シャープはここ1年、高精細の8Kディスプレーに力を注いできたが、再びスマホ向けの主導権争いに名乗りを上げる。
上場通知書を手にする戴社長(左)

日刊工業新聞2017年12月8日



「強いもの同士が組んでいくのは必然」


 東芝の東証2部への「降格」が秒読みとなっている。半導体事業を承継する新会社「東芝メモリ」の株式売却は2018年3月期となる見通し。17年3月末時点で株主資本がマイナスになれば、東京証券取引所のルールにより、東証1部から2部に指定替えされる。名門企業が2部に降格する異常事態に、産業界にはため息が広がっている。

 東芝は17年3月期に原子力関連事業で約7000億円の損失を計上し、株主資本がマイナスになる見通し。半導体事業を承継する新会社の株式売却が18年3月期前半にずれたため、東証ルールに従い東証1部から2部に指定替えとなる可能性が大きい。その状態が1年続くと上場廃止。

 また同社は特設注意市場銘柄に指定されている。内部体制に改善が見られず、同銘柄が解除されなければ、1年をまたずに上場廃止となる。

 2007年以降に2部降格になった企業をみると、債務超過がほとんどだ。電機大手ではシャープも昨年に降格している。両社は創業100年以上の歴史を誇る名門。2007年に実は両社は液晶パネルと半導体分野で戦略提携を発表している。

 当時の東芝の西田厚聡社長とシャープの片山幹雄社長が華々しく記者会見を開き、「強いもの同士が組んでいくのは必然」と語っていた。シャープは台湾・鴻海精密工業の傘下で液晶事業が復活の兆しを見え始め、東芝は稼ぎ頭の半導体メモリー事業の外部出資を決断した。

 わずか10年の間に企業の栄枯盛衰が見てとれる。

日刊工業新聞2017年2月27日の記事に加筆


               


日本にジョブズはいるか


 「ソニーはなぜiPodを製品化できなかったのか」、「東芝はなぜ原子力事業で大型買収に動いたのか」―。日本の電機産業の競争力を考える時、この二つの問いにたどり着く。世界最強といわれた1980年代。その後、日米半導体協定、ITバブルの崩壊、ウェブ2・0の台頭と競争力は経年劣化していく。ところが数年来の構造改革により復権への足がかりをつかんだ。今こそグローバル市場へふたたび打って出る時がやってきた。

 ビル・ゲイツ引退―。米マイクロソフト(MS)創業者は、20年近く世界のIT・電機産業の中心にいた。20世紀最大の発明といわれるパソコンを徹底的にコモディティー(日用品)化した戦略は、日本のモノづくりを根底から揺るがした。

 ゲイツ流経営の極意は技術へのこだわりよりも市場で勝つこと。「巨額な投資をしても間違えば即断で方向転換する。ウィンドウズ95はまさに象徴的な成功例」(国内パソコンメーカー幹部)。日本勢が苦手とする将来を見据えた競争相手のベンチマークは卓越していた。

コモディティーにおいてはPCも原子力も同じ


 「東芝の事業の9割以上はコモディティー。ならば規模を追わなければもうからない」―。東芝の西田厚聰社長は、日本の経営者の中でも特にシリコンバレーの風を感じ取れる人物だ。ゲイツ氏とは旧知の中で、その戦略的思考から大いに刺激も受けた。

 06年に米原子力大手ウエスチングハウスを買収した時、投資家やメディアの論調は多くが「無謀」だった。しかし西田社長は、コモディティーにおける寡占の重要性は、パソコンも原子力も同じという考え。ITのパソコンと重厚長大の原子力が成長事業へ変わったのは偶然ではない。

 ゲイツ氏引退は単なる企業トップの引き際という事象ではなく、業界勢力図の地殻変動と軌を一にする。米グーグルがネット上の無料ソフト提供でMSの事業基盤を脅かし、新しいカリスマには米アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)が君臨する。

 「本来は出井(伸之前ソニー会長)さんがジョブズになっていてもおかしくなかった」(ソニー幹部)。時計の針は約6年前に戻る。出井氏は当時から電機業界の中でもインターネットに最も関心が高かった。家庭用ゲーム機が大ヒットし、ソニーは技術や顧客資産からみても、iPodや「iPhone」のような製品を生み出す最も近い位置にいた。

 残念ながら、出井ビジョンを実行すべきはずのソニーの技術管理層は「アナログ時代の発想にしばられていた」(ソニーOB)。ジョブズCEOは、技術者でありながらマーケティングの天才であるところに、今のアップルの快進撃がある。

世界の優良企業トップのキャリアパスとは


 世界の優良ハイテク企業の経営者は、技術者として出発し、キャリアパスの条件として一度はマーケティングの戦略部門を経験するケースが多い。日本には「マネジメントができる技術者」、「ITがわかる経営者」がこれまで少なかった。

 昨年、49歳の若さで社長に抜てきされたシャープの片山幹雄氏。根っからの技術者だが、役員時代に液晶の営業で事業を急拡大させた。しかし「産業規模を考えたら液晶より太陽電池の方がはるかに大きい」と片山社長。自社の競争力を冷静に分析し5年後、10年後に事業構造が大きく変質することを示唆する。

 最近の「電機再編」で最も戦略的互恵関係といえるのが、東芝とシャープの液晶・半導体の包括提携。企業トップにも世界標準に近い活力が戻ろうとしている。

日刊工業新聞2008年7月22日「連載 電機復権」より

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2008年の春から電機担当のキャップになった。その年の夏に「電機復権」という連載を書いた。もちろん当時の雰囲気だけで書いたつもりはないが、記者としての未熟さを感じざるを得ない。だからこそ、今の電機業界、東芝、シャープの動きも冷静に見ていきたい。

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