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アスクル火災、ネット通販だけでなく流通業すべてが教訓に

一つのセンターに集中するリスク顕在化
アスクル火災、ネット通販だけでなく流通業すべてが教訓に

屋根部分は火災で焦げ波打つようにゆがんでいる(20日撮影)

 アスクルは物流センター「ASKUL Logi PARK首都圏」(ALP首都圏、埼玉県三芳町)の火災による操業停止を受け、横浜市内の物流センターに配送を振り替える対応に追われている。しかし、建物規模や取扱商品はALP首都圏の約2分の1と小さく、長期間カバーするのは困難な状況だ。ネット通販市場が拡大する中で順調に受注を伸ばしてきただけに、影響が長引けば業績の先行きに暗雲が立ちこめる。

 16日朝にALP首都圏で発生した火災は、発生から5日以上たった21日も鎮火のめどは立っていない。19日未明には倉庫に保管する大量のスプレー缶に引火したとみられる爆発が2回起き、近隣住民に避難勧告が出るなど「想定外の事態」(アスクル)が重なった。リスク管理の難しさを浮き彫りにした格好だ。

 これまでに鉄骨3階建て倉庫約7万2000平方メートルのうち、東京ドーム1個分相当の約4万5000平方メートルが焼損。倉庫には窓や出入り口が少ないため直接注水できず、消火活動は難航している模様だ。ALP首都圏の物流機能は完全に停止している。

 ALP首都圏は東日本エリアの物流拠点。企業向けにオフィス用品などを販売する「ASKUL(アスクル)」と、個人向けに日用品などを販売するネット通販「LOHACO(ロハコ)」の商品を在庫し、コピー用紙や文房具、日用品など約7万品目を保管していた。

 全国7拠点を持つアスクルは横浜市鶴見区の物流センター「ASKUL Logi PARK横浜」(ALP横浜)の出荷体制が整ったとして、停止していた通販の「アスクル」や「ロハコ」の出荷を16日18時に再開した。ただ、注文サイトでは3万品目以上が“品切れ”表示で、一部地域への配送も1―2日遅れている。

 ALP首都圏の復旧のめどは立っておらず、今後の物流体制についてアスクルは「議論を進めている途中」とする。同社の事業継続計画(BCP)では、物流センターが機能不全に陥った場合、他センターで代替し、商品数を抑えるともに配送リードタイムを伸ばして対応することになっている。

 ただ、こうした状況が長期化すればサービスの品質低下につながり、顧客離れは避けられない。ネット通販は競争が激化しており、競合各社は配送時間の利便性やサービスの拡充を相次いで打ち出している。

 アスクルは今回の火災で首都圏を中心に1時間単位で受取時間が指定できるサービスも一時停止に追い込まれた。首都圏に物流センターを構え、効率化を追求してきただけに、大型拠点の損失による経営面へのダメージは大きい。
(文=山下絵梨)

 
日刊工業新聞2017年2月21日「深層断面」一部修正
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
アスクル物流センターの火災は、すべての流通業が注意しなければならないことを教えている。事業の継続をどうするのか。一つのセンターに集中した体制を構築していいのか。代替機能はどうするのか。ネット通販だけでなく、店舗を持つ流通業も改めて点検が必要なのでは

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