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日本人は世界有数の短眠民族、健康寿命に最大のリスク

平均寿命は世界一も、「寝る子は育つ」に逆行
 WHO(世界保健機関)の最新データ(2016年)によると、日本人の平均寿命は83・7歳で世界1位となっています。男女別では、男性80・5歳(5位)、女性86・8歳(1位)でともに前年より伸びています。

 一方、健康寿命(WHOが00年に提唱した概念で、平均寿命から日常的・継続的な医療・介護に依存して生きる期間を除いた期間、分かりやすく言うと、一人で医療や介護に頼らず生活を営むことができる期間)は74・9歳で、1位となっています。男女別健康寿命は、男性70・42歳、女性73・62歳(2010年)で平均寿命同様伸びてきています。

 しかし、問題は平均寿命と健康寿命の差です。平均寿命との差は男性9・22年、女性12・77年となっており、男女ともに晩年の10年前後を介護、医療の世話になっているのです。

 それでもわが国の平均寿命と健康寿命の差は他の先進国と比較して大きくはありません。差が少ない国は開発途上国が多く、寿命も短いのです。平均寿命も長く、しかも健康寿命との差が少ないことが望ましいことは言うまでもありません。

 病院で患者を診る立場からすると、高齢者はそれまでの生活が反映された形で入院を余儀なくされているように思います。病気になってから、健康を取り戻すことがいかに大変であるか、医療現場は苦労が絶えません。

 生まれた以上、寿命があるのは当然です。このことを私たちは意外と実感をもって受け入れていないと思います。

 健康寿命を保つ三つの基本事項があります。食事、運動、睡眠です。食事に関しては、和食の良さが評価されています。運動に関しては、まず歩くことが奨励されているのはご存知の通りです。

 問題は睡眠です。6時間から8時間が望ましいのですが、日本人は世界で代表的な短眠民族でその傾向は強くなる一方です。鬱(うつ)病増加もこれと無関係ではありません。寝る子は育つ、は成人、中高年も当てはまる標語だと思います。

 寿命を延ばす試みはどうでしょうか。悪性腫瘍の治療が向上するのは望ましいことです。しかし、口から食事をとらなくなった高齢者に鼻から胃に管を入れたり、胃瘻(いろう)を造って栄養を補給し、安易に延命を図るのは決して好ましいとは思いません。

 自分なら望まないのに親が経口摂取できなくなった時は胃瘻を造る、という矛盾をどう考えたらよいのでしょうか。こうした医療行為をあえて行わない決断が求められています。
(文=中西泉・医療法人社団慶泉会町田慶泉病院理事長) 

(2017/2/17 05:00)
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
「『健康寿命』の延伸」は今後、良いキーワードになるのではないか。増え続ける医療費の抑制は“待ったなし”だが、いざ取り組もうとすると「総論賛成・各論反対」の議論に陥りがち。健康寿命を延伸し、平均寿命と健康寿命の差を縮めれば、医療費抑制に効果は覿面。そのうえ、「健康寿命」を延伸することに反対する人はそうはいない。まして、衣食住などと関連づけやすいし、ビジネス的な“うまみ”もありそう。国を挙げて取り組むべきだろう。

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