マイナス金利1年、黒田ジョークに「つらすぎて、笑うしかないよ」

地銀に冬は続く。露呈する旧来モデルの限界

 「劇薬」に例えられたマイナス金利政策が導入されて明日で1年を迎える。歴史的低水準にあった金利水準が更に低下したが、借り手の企業は設備投資に慎重な姿勢を崩していない。銀行の収益悪化など副作用が目立つが、マイナス金利は金融機関の従来のビジネスモデルの限界も露呈させた。

実体経済のプラス影響は多くは生まれていない


 1月4日、都内で開かれた全国銀行協会の賀詞交換会。「昨年の今ごろと比較しても和やかで明るさが増しているようにみえる」。日銀の黒田東彦総裁は冒頭に、来場者の表情を景気動向を反映する指標とし、軽妙なジョークを飛ばした。場内を沸かせたが、地方銀行幹部は黒田総裁の挨拶語にこう漏らした。「つらすぎて、笑うしかないよ」。
 
 マイナス金利政策は経済学の理論上は、貸出金利や預金金利の低下、利回り曲線(イールドカーブ)の下方圧力に伴う融資の増大、ポートフォリオ・リバランス効果による株式など資産価格の上昇、外債購入による自国通貨安などを促す。
 
 実際2016年2月の導入直後は円相場が下落、株価は上昇したが、すぐに反転し、円高と株安が続く展開となった。日本経済が力強さに欠いた上、新興国経済の減速や、6月の英国のEU離脱の決定など外部環境の不明性と増大したためだ。

 11月の米国大統領選挙でトランプ氏に次期大統領が決まると、インフラ投資など積極的な景気刺激策への期待から、市場環境が好転。「季節外れの思わぬ突風」(メガバンク幹部)が吹いた格好だが、マイナス金利政策が狙った金利低下に伴う資金需要の喚起を生み出したとは言いがたい。全国銀行協会の国部毅会長は「実体経済へのプラス影響はまだ多くは生まれていない」とこの一年を振り返る。
 

不動産投資のバブルを懸念する声高まる


 17年1月の国内銀行の預金から貸出金を引いた「預貸ギャップ」は224兆円と過去最高額にまで膨らみ、空前のカネ余り状態にある。「すでに低金利にあり、金利を下げたところで借りる動機にはならない」(中堅製造業経営者)とのマイナス金利導入前の指摘は現実のものになっている。

 貸出が伸びているのは、不動産業者向けや賃貸住宅を建設する個人向け融資が中心。不動産投資のバブルを懸念する声は日増しに高まる。
 
 金融機関にとっては金利低下に苦しむ悪夢のような一年だった。日銀の統計によると国内銀行の16年12月の貸出残高における平均金利は0・998%となり、初めて1%を割り込んだ。

 一方、預金金利は3メガバンクの普通預金の金利が0・001%と過去最低水準。理論と現実が異なるように、銀行は貸出金利を下げても、預金金利をマイナスには設定しにくく、収益は悪化する。

 金融機関には安定資産であった10年物国債の利回りは一時マイナス圏に沈んだが、日銀は9月に新たな枠組みを導入。利回りを「ゼロ%程度」目標に誘導しており、新規貸し出しの金利低下に歯止めがかかるが、利ざや縮小の圧力は依然として強い。

<次ぎのページ、金融庁に突きつけられた「変身」>

日刊工業新聞2017年2月15日、16日 加筆修正

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栗下 直也

栗下 直也
02月17日
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金融政策は大きな枠組みで、その一部であるマイナス金利政策のみを評価するのは難しい。ただ、長期金利の低下にひきづられ、住宅ローンの金利が低下し、借り換え需要は急拡大したが、足元では一服感もある。企業向けの貸出金利も低下したが、「企業の投資意欲が高まっている状況ではない」(メガバンク幹部)。目に見えたマイナス金利のメリットは、はく落しているのが現状だろう。

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