正念場の鉄鋼。業績反転へ今なお苦しむ

自動車用鋼板はフル稼働も、価格転嫁の壁高く

 鉄鋼大手が業績反転に向け、今なお苦しんでいる。鋼材市況の回復や需要の増加、さらには円安の追い風を受け、事業環境は最悪期を脱したものの、原料高騰に伴う価格転嫁の遅れなどが響き、2017年3月期の実質的な損益はむしろ悪化している。18年3月期からの反転攻勢に向け、助走期間ともいえるこの数カ月が胸突き八丁と言える。(

 「3月末までに、ぴったり2万円上がるとは申し上げられない。ずれはある。来期以降も引き続き価格是正に向け努力していく」。新日鉄住金の栄敏治副社長は、原料炭の急騰をはじめとする原料コストの転嫁が年度をまたぐことを認めた。

 鉄鋼大手は16年10月以降、それまでの2倍以上に暴騰した原料炭などの負担増を鋼材1トン当たり2万円と計算。その分を最終価格に上乗せしたいとユーザーに求めた。

 だが、その浸透は遅れている。鉄鋼大手3社の16年10―12月の鋼材平均単価は、その前の7―9月平均から同2000―3000円程度の上昇にとどまる。「転嫁には時間がかかる。原料が2万円分上がったからといって、製品も翌日から上がるわけではない」(神戸製鋼所の梅原尚人副社長)と説明する。
                   

 仕切り直しとなる17年1―3月の平均単価の見通しでは、各社とも一気に上昇すると想定している。特に強気なのが新日鉄住金。同8万4000円と原料炭が上昇する前の同6万8000円程度から約1万6000円のアップを見込む。目標とする2万円まではあと一歩だ。しかも、1―3月平均でその数字であり、3月末には限りなく2万円に近づくことになる。

 それでも冒頭の栄副社長の発言のように、取りこぼしや年度をまたぐケースも少なくない。「すべて思い通りいかない。店売り(一般販売店向け)、ひも付き(特定需要家向け)を含む営業情報を評価してこの数字にした」と唇をかむ。

 他社も状況は同じ。JFEスチールでは「年度末までに取り切れる状況ではない」(岡田伸一JFEホールディングス副社長)と口をそろえるように、原料炭上昇前からの上げ幅は1万2000円強、神鋼も1万1000円程度にとどまる。この結果、1―3月期ですら「スプレッド(製品価格と原料価格の差)は縮小する」(同)ことで実態損益は悪化を見込まざるを得ない。

幸い円安が進み、原料高もあって在庫評価差や為替換算差が損失から利益に転換したり、利益が膨らんだりする効果で、見た目の業績は大幅に改善する。ただ、業績の足を引っ張る要因は価格転嫁の遅れだけにはとどまらない。

伸び悩む粗鋼生産


 「火災の影響に加え、自動車向けの難しい製品が増えたため生産性が落ちた。一部の工程で小さなトラブルもあった」。新日鉄住金の栄敏治副社長は、この1―3月に粗鋼生産量や鋼材出荷量が一時的に落ち込む理由をこう説明した。

 1月5日に発生した大分製鉄所(大分市)の火災で、厚鋼板生産の半分弱を占めていた工場が停止。3月末までの影響額は経常損益ベースで100億円、4月以降も同じく100億円の損失が見込まれる。加えて損傷した設備の撤去・修繕などの費用として、2017年3月期末に特別損失100億円を計上する。
                    

 余波は輸出の数字にも表れている。JFEスチールや神戸製鋼所は海外市況の回復や円安効果などで一定の利幅が見込めるとし、1―3月に輸出比率を高める予定。これに対し、新日鉄住金は「国内の顧客を優先するため、輸出は調整する」(栄副社長)ことで逆に減らさざるを得ない。

 国内では年度末に向けた自動車メーカーの挽回生産により、薄鋼板も逼迫(ひっぱく)する。自動車に使う表面処理鋼板や高張力鋼板(ハイテン)などの高付加価値品はリードタイムが長く、製造も難しい。

 例えば、ハイテンは製鋼や圧延工程で精緻な制御が必要で、単純な鋼材より歩留まりも悪い。その分、単位時間当たりの生産量は落ちる。結果、同社の1―3月の粗鋼生産量(単独ベース)は1050万トン程度と供給がタイトなのにもかかわらず、需要が低迷していた前年同期並みか、やや下回りそうだ。
 
 JFEも「自動車用のラインはほぼフル操業」(東日本製鉄所長の北野嘉久専務執行役員)という状況だが、1―3月の粗鋼生産量(同)は、708万トン程度と前年同期より2%多いくらい。直近で操業度が高かった14年前半の水準には及ばない。

 「以前は頼まれれば無理してつくっていたが、今は修繕工事を計画通り実施した上で、可能な範囲でつくる」(JFE関係者)という側面もある。トラブルを起こしてしまっては、かえって生産量を落としてしまうためだ。最近は設備の老朽化もあり、現場は安全操業に徹している。
                  

(文=大橋修)

日刊工業新聞2017年2月6日/7日

日刊工業新聞 記者

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02月13日
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自動車用鋼板については、かねて「値段が安すぎる。もっと上げて頂かないと再生産もできない」(鉄鋼大手役員)と漏らすほど利幅が薄い。それでもボリュームが大きいことと長年の緊密な取引関係から、それを甘受。需給がタイトな足元では、ほかの注文を絞ってでも自動車向けを優先している。近く、半期に一度の自動車大手との納入価格交渉がまとまる見通しだが、鉄鋼大手が譲れない線は例年以上に高い。
(日刊工業新聞第ニ産業部・大橋修)

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