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好調スバルにトランプリスクは?

米国販売に自信、メードインUSAに踏み込むか
 2017年3月期の業績を上方修正した富士重工業。販売は好調で世界販売と海外販売台数は5年連続、北米販売台数は8年連続で過去最高を更新する見通し。ただ主戦場の米国ではトランプ政権発足により通商リスクが高まっている。このままの勢いを今年も続けることができるか。

 米国は世界販売の6割を占める金城湯池。2017年のスバル車の米国販売は前年比1割増の67万台を計画している。新型インプレッサの米国販売は昨年12月下旬ごろに始まったばかりで、本格的に販売に寄与し始めたのは今年に入ってから。これからさらにエンジンがかかるだろう。

 トランプ発言に揺れる自動車業界だが、吉永泰之社長は「自国経済に不利になることはしないだろう。米国の自動車総需要が、大きく落ち込むはとは思えない」と話す。

 一方で、米国通商政策は同社のビジネスに影響するのは間違いなく、「米国工場の能力増強を続けており雇用も増える。米国での生産拡大には少なからず貢献できている」(高橋充取締役専務執行役員)ことを今後もアピールしていく考えだ。

 常に問われる米国事業への依存度の高さ。それについて吉永社長は「全く心配していないし、為替レートが1ドル=100円でも2ケタの営業利益率を出せる力がある」と意に介さない。

 ここ数年、個性的な車づくりで高い利益を出し続けてきた。「そのビジネスモデルが崩れてしまうほうが問題だ」(吉永社長)。

 運転支援システム「アイサイト」の開発など安全性の高い車づくりでブランド力を高め、世界販売が16年度に初めて100万台を超える。販売が増える中、最大の課題は車の品質をどう維持していくか。

安全技術のブランド力を維持し続ける


 “安心・安全”というブランドイメージが定着しつつある中で、万が一品質問題が発生したら大変なことになる。吉永社長は「少しでも品質が心配なら生産ラインを止めるくらいの意識を持っている」と話す。

 昨年に全面刷新した共通プラットフォーム(車台)はコスト削減ではなく、スバル車の安全性能を底上げするために開発したもの。「アイサイト」もまだまだ進化できる見通しで、今後も安全性能で他社を一歩でも二歩でもリードしていくことが重要になる。

 そのため「スバル車の特徴を伸ばす投資を継続していく」(同)。2016年―18年度の研究開発費は過去最大規模となる3600億円を計画。特に「アイサイト」をベースにした自動運転車の開発を積極化する考えだ。

 今年には高速道路の同一車線上で渋滞時に前方車両を追従する自動運転機能を、20年には自動で車線変更する機能を実用化する。20年の自動運転機能にはアイサイトとは別に周辺検知用のセンサーなどが必要になる。

 開発担当の武藤直人取締役専務執行役員は「いかにシンプルな部品構成で実現できるか。技術屋の知恵の見せ所だ」と話す。

 吉永社長は「好調だからといって気を緩めるつもりはない。『これで大丈夫』と思う気持ちが最大のリスク」と強調する。今年も“吉永・スバル”のハンドルさばきに注目だ。
日刊工業新聞2017年2月9日の記事に大幅加筆
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
スバル車の2016年度の米国販売は66万7400台の見込み。現在、米国生産は年39万4000台なので、単純計算で約40%に当たる27万3400台を日本の工場から輸入することになる。トランプ政権の輸入品に対する厳しい姿勢は、スバルにとって大きなリスク。今後は部品の米国生産比率を高める措置が一つの対応策となる。注目はエンジン。スバル車の命である水平対向エンジンは、各部品の精度要求が高く国内生産を基本路線としてきた。メードインジャパンのアイデンティティを貫くか、メードインUSAに踏み込むか。大胆な経営判断を繰り出してきた吉永社長が、後者を選択しても不思議はない。

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