炭素繊維の救世主、急拡大する「ラージトウ」って何?

高機能品が伸び悩む中、産業用途で廉価ニーズ

 「ラージトウ(LT)」と呼ばれる汎用の炭素繊維を巡り、東レや三菱レイヨンの動きが活発化している。LTは上位品のレギュラートウ(RT)と比べ、物性は劣るものの低価格で、コスト要求が厳しい産業用途を中心に需要が急拡大する。ロケットや航空機などに使われる高機能のRTが伸び悩む中、拡大が続く炭素繊維市場をけん引する。各社はLTの増産や加工会社の設立を活発化。有望市場への投資が熱を帯びている。

 「産業用途を中心にLT需要の拡大は目覚ましいものがある。今後は燃費改善を進める自動車分野にもLTが本格的に使われ出すと見ており、この商機は逃せない」。炭素繊維生産首位、東レの日覚昭広社長はこう強調し、LT生産拠点の大規模な増強を公言する。

東レや三菱レイヨンなどが増強へ


 LTはRTと比べ、原糸製造や焼成工程の設備当たりの生産性が高く、専用設備を必要としないため、低価格で販売できる。大部分のLTはRTの半値程度で、風力発電装置用のブレード(羽根)や圧力容器などコスト要求が厳しい産業用途で廉価のLTが需要を大きく伸ばす。

 もともと東レは米航空機大手ボーイングと1兆円を超える炭素繊維複合材料の供給契約を結ぶなど、物性の高いRTのみで事業展開し、東レブランドを育成してきた。

 しかし、産業用途の炭素繊維が急拡大するのを前に、一線を画してきたLT製造会社を買収し、汎用品にまで商材を広げる戦略へと事業方針を転換した。

 同社が生産規模拡大を急ぐのは、2013年に580億円で傘下に収めた米ゾルテック(ミズーリ州)。東レグループで唯一、LTを生産する。

 今の生産能力は年1万5500トンで全量がLT。これを20年までに2万6000トンに増やす計画だ。投資額への言及は避けるが、一連の増産にかかる投資額は数百億円規模に積み上がると見られる。

 二つの生産拠点のうちメキシコ工場(ハリスコ州)は、炭素繊維製造の下流工程である焼成設備を増強し、年2500トンだった生産能力を16年3月までに同5000トンに引き上げた。早期の追加投資を検討していると見られ、焼成設備新設に着手する可能性が高い。

 ハンガリー工場(コマーロムエステルゴム県)はブレード需要が伸びる欧州市場への重要拠点だ。加えて欧州自動車メーカーは部品の軽量化に寄与する炭素繊維複合材料の採用に積極的で、低価格のLTへの興味は高い。

 今の生産能力は年1万500トン。当面はメキシコへの投資が中心となるが、ハンガリー工場も拡張余地があり、焼成設備の増強を中心に追加投資を検討すると見られる。
                  

 「LTの生産拡大への投資は続ける。将来はLTが主力になるのではないか」。炭素繊維生産3位の三菱レイヨンを傘下に持つ三菱ケミカルホールディングス(HD)の越智仁社長はこのような展望を明かす。

 20年までに炭素繊維複合材料事業で売上高1000億円(15年度は561億円)を目指しており、その中核にLTを据え、大口需要を取り込む戦略だ。

 LTの増強を進めるのは同社最大拠点、大竹事業所(広島県大竹市)。今の生産能力は年2700トン。既存設備の改良で投資額を20億円に抑え、17年9月までに44%増の同3900トンに引き上げる。

 同事業所は石炭火力発電設備を持ちユーティリティーコストを抑えた操業が最大の強みで、アジアや欧州市場向けLTの供給基地とする計画だ。

 また、1月に独素材大手SGLグループが米国に持つ炭素繊維工場(ワイオミング州)の買収を決めたが、この拠点でもLTを生産する計画を温める。

 工場の取得額は10億―15億円。追加投資を検討することも示唆しており、この工場が持たない原糸の生産設備に踏み切れば、投資額は100億円を超える。

 三菱レイヨンは実際の需要家に近い炭素繊維加工会社の買収や設立にも積極的だ。風力発電用ブレードに使用する炭素繊維複合材料積層板の製造会社を16年秋にデンマークに立ち上げた。基材にはLTを使い、洋上発電の普及を追い風に販売を伸ばす。
LTは風力発電装置のブレードなどに使われ、需要が急拡大している(イメージ)


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日刊工業新聞2017年1月25日

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日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
01月29日
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 現在、炭素繊維需要量は年6万―7万トンで、うち25%程度の1万5000トン―同2万トンがLT需要だ。20年の炭素繊維の全体需要は倍増し、同14万トン台に乗る観測。LT需要は市場成長率を超える伸びを見せ、全体の50%となる同7万トンに拡大する見通し。
(日刊工業新聞第ニ産業部・小野里裕一)

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