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JR東海、リニア開業に向け「正念場の10年」が始まる

「工事環境が厳しく投資額が増えている。継続的にコストを削減する」
JR東海、リニア開業に向け「正念場の10年」が始まる

試験走行するリニア中央新幹線

**柘植康英社長インタビュー
 ―2027年のリニア中央新幹線品川―名古屋間開業に向け、主要工区で着工しました。工事が本格化しますが、課題は。
 「用地取得だ。地権者が5000人と多く、都市部では難しい面もある。地方自治体の力を借りて、丁寧に労力を惜しまず進める。コストダウンも課題だ。20年の東京五輪・パラリンピックを控えて、工事環境が厳しくなる。投資額が増えており、継続的にコストを削減する」

 ―残土処理をどう進めますか。
 「愛知県と山梨県では県のご協力で、必要な分より多くの候補地がある。厳しい状況なのは、東京都と神奈川県だ。地域と話し合い、理解を得ながら進める。残土が発生する頃には明確に決める」

 ―リニア開業で名古屋と東京が近くなり、ヒト、モノ、カネが東京に集中する心配はありませんか。
 「東京と名古屋が一つの都市のようになり、逆に首都圏への集積を分散できる。東海地域の強みであるモノづくりは、東京には持ち込めない。むしろ首都圏の本社や工場、研究所を名古屋に移すことは十分可能だ」

 ―東海道新幹線の将来の位置づけは変わりますか。
 「リニアが大阪に通るまで、東海道新幹線で収益を上げる。いままで以上に、フル操業で支えてもらう。利便性は引き続き磨き上げる。リニアが開業すると運行本数が少なくなるかもしれないが、二重系として大事な存在だ。在来線は沿線人口が将来減る中で、運営や費用をどうするかが課題だ」

 ―米国でテキサス州のダラス―ヒューストン間の高速鉄道計画を支援しますが、進展の見通しは。
 「事業主体は地元企業で、当社の役割は技術支援だ。人口増加と(困難な石油などの抽出を可能にした)“シェール革命”で勢いがある地域だが、一番の課題は地元企業が18年3月までに建設資金1億2000万ドル(約140億円)を調達できるかだ」
柘植康英社長
日刊工業新聞2017年1月24日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
リニア中央新幹線の用地取得、残土処理はいずれも、地域住民に丁寧に説明し、理解を得ることが引き続き求められる。難工事が予想される南アルプストンネルなど、各工事はリスク管理も不可欠だ。史上有数の交通インフラ計画だが、先行区間を予定通り開業できるのか。その先で待つ大きな飛躍に向け、正念場の10年が始まる。 (日刊工業新聞名古屋支社・戸村智幸)

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