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キヤノンと東芝をさらに接近させる次世代半導体装置

分社化する半導体事業に出資検討、量産準備進むナノインプリント露光
キヤノンと東芝をさらに接近させる次世代半導体装置

東芝の綱川社長(左)とキヤノンの御手洗会長兼CEO

 東芝は2017年度にも、キヤノンと共同開発した次世代半導体露光装置をNAND型フラッシュメモリーの量産ラインに採用することを決めた。「ナノインプリント露光(用語参照)」技術を使った装置で、量産での利用は電機業界初。東芝はメモリーの製造コスト低減の切り札と位置づけ、経営再建の柱であるメモリー事業の収益力向上につなげる。キヤノンはナノインプリント露光装置を次世代の主力事業に育てる。

 三重県・四日市の最新工場にナノインプリント露光装置を導入する。記憶素子を積層する3D(3次元)構造NANDメモリー生産の露光工程の一部で活用する。

 ナノインプリント露光装置は、はんこを押すような要領で回路パターンを形成する。既存のフッ化アルゴン(ArF)液浸露光装置で2回必要になる処理が1回で済む。装置価格もArF液浸よりも大幅に安いため、東芝は製造コストを大幅に低減できるとみる。

 NANDメモリー市場はスマートフォン向けに、データセンター(DC)向け需要が加わり安定して伸びる見通し。東芝は同事業でシェア2位と世界的な競争力を維持しており、経営再建の柱に位置付けた。ただ価格面では、スマホ市場の成長鈍化で下落が急速に進む。コスト削減が競争力を左右するポイントになっており、東芝はナノインプリント露光装置の活用を模索していた。

 東芝とキヤノンは14年にナノインプリント露光装置の共同開発を開始した。キヤノンは16年からの5カ年経営計画で、ナノインプリント露光装置を注力する新規事業の一つに掲げている。今回の量産設備への導入により事業成長に弾みがつく。
【用語】ナノインプリント露光=回路パターンを彫り込んだ型を半導体ウエハーに押しあてて転写する技術。光で回路パターンを焼き付ける既存技術に比べ、高精度レンズなどが不要で装置価格が安い。また転写精度が高く回路線幅の微細化を進めやすいメリットもある。一方、回路パターンの一部が壊れる欠陥などの課題があり量産工程での実用化が難しかった。

日刊工業新聞2016年3月18日


東芝の四日市工場


「量産へ工程すり合わせ進める」


キヤノン執行役員・武石洋明氏に聞く。

 ―露光装置の新製品を相次ぎ出すなど、攻めに転じています。
 「NANDやDRAM、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の需要が堅調なほか、旧世代向けの新製品需要も出てきた。IoT(モノのインターネット)向けデバイスの増加など市場も広がってきた。一方、微細化の進展が緩やかになり顧客の投資姿勢も慎重になるなど、以前のシリコンサイクルに比べ市場変動は、なだらかな感がある」

 ―直径200ミリメートルウエハー向け装置が活況です。
 「ニーズが多様化して、最大公約数を掴(つか)むのが難しくなっている。ニーズを早期に掴むべく、開発から生産、営業の連携を密にする。また技術別のプラットフォーム化を強化して、カスタマイズしやすい仕組みを作る」

 ―ナノインプリント露光装置の進捗(しんちょく)は。
 「量産に向けて工程のすり合わせを進めている。課題はスループットの向上だが、量産適用レベルへの到達は視野に入っている。今後の課題は技術のメリットを周知し、顧客をどう増やすかだ」

 ―事業展望は。
「動向を見い出し、成長余地のある所へ展開する。微細加工技術の領域で新たな事業の軸を作りたい」
【記者の目・ナノインプリントに焦点】
 早い段階で先端露光技術の一つであるフッ化アルゴン(ArF)液浸装置の開発・販売からの撤退を判断し、路線転換した成果が出始めている。ナノインプリントを軌道に乗せることが、本格的な成長回帰につながる。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年12月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
キヤノンが東芝が分社する半導体メモリー事業への出資を検討しているという。東芝は持ち株会社への移行も検討しており、かなりの事業は切り売りされていくだろう。問題はやはり原発事業をどうするか、そこに尽きる。

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