東芝「巨額損失」の起源を考える

異端のリーダーから始まった「二律背反のガバナンス」


半導体の収益変動と再編に翻弄される


 「日本の半導体産業の生き残りも考える。日本は企業数が多い」―。1月29日、収益改善策の発表と同時に飛び出した西田社長の半導体再編への意欲。システムLSIとディスクリート(個別半導体)事業は他社との再編を念頭に分社も辞さない考えを表明した。

 原子力を中心とした社会インフラと半導体は成長の両輪のはずだった。ところが今や赤字を垂れ流す半導体事業のテコ入れは最大の懸案事項。すでに事業売却に動いている富士通、赤字子会社を抱えるNECなどの首脳からも、再編に対し以前よりも柔軟な発言が聞こえるようになった。

 半導体の売上高で世界3位の東芝。ここ数年、日本の半導体産業をリードしてきたが「現時点で東芝に再編の主導権があるとは到底思えない」と国内半導体大手幹部は指摘する。

 まず候補に挙がっているのはNECエレクトロニクスとのシステムLSIの事業統合。先端プロセスを共同開発しており理想的な組み合わせに思える。ただ、今のところ東芝はシステムLSI事業を連結対象から外す考えはなさそうだ。当然、他社との激しい競争は続き、また東芝の財務体質の抜本的な改善にもつながらない。

 持ち分法適用会社にしたとしても、09年3月期に巨額赤字を計上するルネサステクノロジの二の舞になる可能性は高い。ルネサスは結局、親会社の日立製作所と三菱電機が増資を引き受ける。赤字事業を本体から切り離す際は、応分のリストラ原資を新会社に持たせる必要があるが、東芝は1000億円以上の損失を一気に拠出する資金力はないと見られる。

【追記】NECエレクトロニクスはこの直後に、ルネサステクノロジと電撃経営統合し現ルネサスエレクトロニクスが誕生した。そのルネサスも経営危機に陥り、官民ファンドの産業革新機構が救済することになる。東芝はシステムLSIの再編に乗り遅れ、ファブレス化を徐々に進めていった。


 「まずは各社が独力で業績を改善させてからではないと再編どころではない」(NEC幹部)というのが現実だ。西田社長が半導体や原子力など中核事業に集中投資した金額は1兆5000億円超。逆に東芝セラミックや東芝EMI、大型液晶パネルなど撤退・売却した事業は約5000億円に達する。

 事業ポートフォリオの入れ替えを積極的に進め「見きり千両」と称された。しかし最近は富士通からハードディスク駆動装置(HDD)事業、パナソニックとの中・小型液晶の共同出資会社を100%子会社することを決めたが、両事業とも収益は厳しい。「東芝が進むべき方向の『選択と集中』からかけ離れている」(証券アナリスト)。

 佐々木次期社長はどこまで事業の入れ替えに踏み込むのか。半導体部門は、依然として社内での発言力は大きい。6月末以降、西田社長は執行役を外れ、取締役会の議長として経営を監督する立場になる。だが、当分は重し役として佐々木氏と二人三脚で改革の道筋を指示していかざるをえないだろう。

【追記】中小型液晶事業は、ソニー、日立製作所と統合し、これも産業革新機構の支援のもと“日の丸液晶会社”ジャパンディスプレイが誕生した。東芝はその後も、スイスのスマートメーター会社ランディス・ギアの買収でも、産業革新機構と共同投資するなど同機構との深い関係を指摘する声も多い。


 「社長業は疲れるよ」―。昨年暮れも押し迫ったころ、ポツリともらした西田社長の本音。すでに自身は社長交代を決断、次期候補の佐々木副社長にも打診していた。でも外では強気の西田節は相変わらず。

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明 豊

明 豊
01月20日
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経営の転機は西田社長の登場だったと思う。西田さんのキャラクターは東芝にとってかなりの「異端」「異物」だったといえる。今回の問題は、「二律背反」という言葉にヒントがある。これは何も東芝に限った話ではない。この10年のスパンで考えると、日本の電機業界を翻弄した韓国サムスンの存在を抜きに語れない。そのサムスンのCEOが、現在、窮地に立たされている。時代は流れ、歴史は違った形で繰り返される。

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