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「20年に売上高5兆円、新規事業の比率を3割に」(キヤノンCEO)

「M&A、3000億円規模であればいつでも実施できる」(御手洗氏)
「20年に売上高5兆円、新規事業の比率を3割に」(キヤノンCEO)

期待する3Dマシンビジョン システム(キヤノン公式ページより)

キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏に聞く。
 ―米国でトランプ政権が発足します。2017年の経済界への影響をどう見ていますか。
 「まだ不透明だ。大統領として、これまでの発言をどの程度まで実行するか。20日の就任演説を待つ。当社の業績は為替の影響が大きいので、貿易政策を注視する。このほか17年は英国の欧州連合(EU)離脱や欧州各国の選挙など、政治面で関心事の多い年だ」

 ―16年は東芝メディカルシステムズを子会社化し、新規事業の育成が進展しました。
 「医療機器だけではない。カメラや複合機事業の成長鈍化に対し、これまで着々とM&A(合併・買収)を進めてきた。監視カメラや商業印刷の買収案件はすでに売り上げに貢献している。こうした新規事業の(現在の)売上高比率は約2割。今の為替水準が続けば、20年に売上高5兆円が視野に入るが、新規事業が3割を担うようにしたい」

 ―新規事業の次の一手は。
 「医療であれば、どんなM&Aが必要かを見極める目は、当社にはない。東芝メディカルシステムズに(見極める目が)ある。今後は買収した各社がM&Aを実施し、当社は必要に応じて技術と資金を出す。3000億円規模であれば、いつでも実施できる」

 ―カメラ市場の縮小が続いています。
 「底は見えた。コンパクトカメラも、スマートフォンにできない撮影を行える製品が伸びている。商品面では、付加価値のない製品は減らし、高級機にシフトする。シェアは絶対確保する。ウエアラブルカメラを含め、新しいタイプのカメラやレンズは全て開発に当たっている。車載カメラも取り組んでいる」

 ―原価率を45%以下に低減する活動の進展状況は。
 「大分のデジタルカメラ工場は、技術的には100%自動生産が可能な状態にまでなっている。他のカメラ工場や複合機工場にも展開していきたい」

 ―米HPが韓国サムスン電子のプリンター事業を買収します。
 「各社が性能などによってシェア争いする構図は変わらない。競争環境に影響はない」

 ―17年12月期の設備投資の計画は。
 「16年に大きな投資は終わった。(17年12月期は)二千数百億円の減価償却の範囲内に収まる」

 ―リコーニコンが構造改革を発表するなど、各社が改革を進めています。
 「(当社では)新規事業の育成による構造転換が、それに当たる。工場閉鎖は考えていない」
(聞き手=梶原洵子)
御手洗会長兼CEO(左)と瀧口登志夫東芝メディカルシステムズ社長

日刊工業新聞2017年1月13日



医療機器は東芝メディカルに集約


 キヤノンの御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)は日刊工業新聞の取材で、2016年末に買収が完了した東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)にキヤノンの医療機器事業を集約していく方針を明らかにした。国内外の販売網などを原則一本化していく。19年をめどに東芝メディカルを新社名に切り替える方針だ。

 今月末に両社の首脳が会談し、協業に向けた検討を本格化させる。3月末をめどに両社の具体的な協業策や中期的な事業戦略をとりまとめる方針だ。

 キヤノンの医療機器事業はデジタルラジオグラフィー(DR)と呼ばれるX線デジタル撮影装置や眼底カメラ、光干渉断層計(OCT)などの眼科機器を手がける。売上高は非公表だが、数百億円程度と見られる。

 御手洗会長兼CEOは「医療機器事業は原則として東芝メディカルに全部統合する」としている。同事業の拡大に向けて東芝メディカルが実施するM&A(合併・買収)を技術・資金面で後押しするほか、生産技術などもシナジー(相乗効果)の創出を目指す。

 また「許認可の関係で東芝メディカルの社名変更に2年くらいかかるが、なるべく急ぎたい」(御手洗会長兼CEO)考え。

日刊工業新聞2017年1月11日



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キヤノンが車載カメラに参入。すでに自動車メーカーと交渉

政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
車載カメラ市場は高い成長が予測されるが、センサーレベルでもモジュールレベルでも既存プレーヤーと新規参入の競争激化が予測される。センサーではオン・セミコンダクターやオムニビジョンに加え、新規参入のソニーがその性能の高さで一歩リードしている状態。キヤノンが食い込むには、もう一段の事業加速が必要になりそう。医療分野では米国を拠点として遺伝子診断装置などの事業化を進めている。東芝メディカルの買収により、キヤノンが進めてきた医療事業の進展度合いにも注視したい。昨年社長に就任した真栄田雅也氏がどんな未来図を描いているのかも気になるところ。

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