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「自動車大国・メキシコ」への投資はどうなる?

日本の大手自動車メーカー、ひとまずトランプ氏の言動を注視
 トランプ米次期大統領は11日(日本時間12日未明)に大統領選後初の会見を開き、20日に新大統領に就任する。これまでツイッターを通じて一方的に情報発信してきたトランプ氏が、具体的な政策にどこまで踏み込むかを市場は注視している。

 米自動車メーカーのメキシコ投資計画に対して批判を繰り広げてきたトランプ次期大統領が、その矛先を向けた最初の日本企業がトヨタ自動車だった。北米国際自動車ショーで豊田章男社長が今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1500億円)を投じる計画を表明したが、トヨタ以外の自動車メーカーも「トランプ対応」に追われるのは必至。

 日産自動車はメキシコを世界への供給拠点と位置づけ、年産85万台の能力を構えるメキシコ最大の自動車メーカーだ。米国にも小型車を輸出している。カルロス・ゴーン日産社長は6日、米ラスベガスの家電見本市「CES」の会場で記者団に対し「次期政権の政策を注視する。NAFTA(北米自由貿易協定)に従っているが、それが変わるなら新しいルールに合わせる」と話した。

 17年中には独ダイムラーと総額10億ドルを投じて高級車ブランドの新工場を操業する予定。当初年産能力は23万台以上を計画している。輸出先に米国も含まれており、計画変更を迫られる可能性がある。

 ホンダはメキシコに年産26万台の能力を持ち、15年にはメキシコ製の小型SUV「HR―V」など10万台を米国に輸入した。現地報道によると、八郷隆弘社長は9日、北米国際自動車ショーの会場で記者団に対し、トランプ氏が自動車メーカーのメキシコ生産で批判を強めていることについて「もう少し状況を見て判断していく」と話し、メキシコでの生産体制を直ちに見直さない考えを示した。ただ「米国は非常に重要な市場だ。しっかり投資していく」とも述べ、トランプ氏への配慮をにじませた。

 マツダは14年にメキシコ工場を操業。15年度には年20万台生産しうち10万台強を米国で販売した。4日、広島市内で年頭会見をしたマツダの小飼雅道社長は「メキシコで自動車を生産して北米や欧州に供給する当社の戦略に変更はなく、引き続き重要な拠点としてしっかり育てたい」と話している。

 自動車業界がけん引し、日本からメキシコへの投資は16年に拡大基調にあった。16年1―9月の投資額は11億ドル(約1265億円)と、すでに15年通年(9億8000万ドル)を上回っていた。中南米の雄であるブラジルが政情不安で景気が低迷。同時期の日本からの投資も約4億ドルにとどまる中、相対的にメキシコの好調さが際立っていた。

 ところが、16年8月の米大統領の選挙期間中に、共和党の候補だったトランプ氏とペニャニエト大統領との会談を主導したビデガライ財務公債相(当時)がメキシコ批判を繰り返すトランプ氏に対する民意の反発を受け辞任。その後、トランプ氏が選挙に勝つと、一転してビデガライ氏は外相に返り咲いた。正式な大統領就任前からメキシコはトランプ氏の言動に振り回されており、こうした状況は当面続きそうだ。
 
日刊工業新聞2017年1月11日「深層断面」を加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2016年のメキシコ国内での自動車生産台数は346万台と前年比2%増え、7年連続で過去最高を更新した。うち輸出台数も276万台と7年連続で過去最高。輸出先の国別では、米国が7.1%増の213万台。2位はカナダで15.2%減の24万台、3位はドイツで15.8%減の7万台。米国向けの比率は77.1%でメキシコ自動車生産の米国依存の高さが分かる。ただ去年は国内需要も好調だったが・・。

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