トランプ相場は中小企業に逆風

円安で原材料費上昇 収益悪化の懸念

 “トランプ相場”による円安基調が、中小企業の収益を圧迫する“逆風”になりかねない。輸出主導型企業には有利な為替相場だが、内需依存度が高い中小にとっては輸入原材料の高騰などマイナス要因になる。加えて中小は人材不足の解消に向けた賃上げ問題も抱え、コスト圧力が一段と強まる可能性が出てきた。安倍晋三政権は中小に賃上げと投資を促す税制改正や予算措置を講じるものの、中小がどこまで呼応できるかは楽観できない。

 8、9月に1ドル=101円台だった月間平均為替相場は米大統領選を境に反転し、足元は同117円台の円安で推移。トランプ米次期大統領への政策期待を反映し、日本の輸出主導型企業には“追い風”だ。株価が1万9000円台に回復したのも、上場企業に輸出主導型が多いためだ。

 だが全産業ベースでみると、円安で為替差益が発生する企業と差損が発生する企業の割合は拮抗(きっこう)する。中でも輸出依存度の低い中小製造業は、円安による輸入品・原材料の仕入れ価格が上昇するマイナス要因になる。経済産業省・中小企業庁がまとめた2016年版の中小企業白書によると、中小製造業全体に占める直接輸出企業数の割合は3・5%(13年)に過ぎない。

 円ドル相場は、各年の平均で13年が同97円台、14年が同105円台、15年が同121円台と円安が進んだ。東京商工リサーチによると、この円安に呼応するように「円安関連倒産」は13年が130件、14年が345件、15年が352件と増加傾向だ。

 また日本政策金融公庫によると、同121円台で推移した15年の調査では、円安は「マイナスの影響」が大きいと回答した中小が42・3%に達していた。「プラスの影響」が大きいとの回答は11・0%にとどまり、取引先の大企業の業績改善などを理由に挙げる。

 一方、中小は賃上げにより不足する人材を確保するなど、円安以外のコスト増要因も抱える。商工中金によると、11月の雇用状況DI(指数、「不足」回答割合から「過剰」回答割合を差し引いた数値)はプラス17・6と、2カ月連続で過去最高を更新している。収益が悪化している中小も賃上げを余儀なくされる企業もあり、利益を賃上げに還元する大企業とは事情が異なる。

 安倍政権は賃上げ企業のすそ野を大企業から中小へと幅広く広げ、経済好循環の実現を狙う。このため17年度税制改正関連法案では賃上げ企業の法人減税などを盛り込んだ。

 また同年度政府予算案でも、金融支援の特例措置などを受けられる「中小企業等経営強化法」の活用拡大や、“下請けいじめ”防止に向けた下請法運用強化などを講じる。中小に賃上げできる余力を持たせる狙いだ。

 中小はこれら施策に呼応し、積極的な賃上げに動くのか。トランプ相場や原油価格の動向など、金融・商品市場の行方が17年の大きな焦点になる。

日刊工業新聞2016年12月29日

神崎 明子

神崎 明子
12月31日
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経済界からは足元の円安・ドル高を歓迎する声が聞かれますが、恩恵を受けるのは一部の輸出型大企業。人手不足による「防衛的な賃上げ」に踏み切らざるを得ない中小企業にとって原材料価格の上昇は収益悪化に拍車をかけるだけに、政策的な目配りが必要だ。

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