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IoTはもう古い?「IoE」で2030年にはどんな世界がやってくるのか

人生全体をデジタル技術で記録する「ライフログ産業」が登場
 2016年に話題となった産業関連のバズワード(流行語)は間違いなく、「人工知能(AI)」と「IoT(モノのインターネット)」でしょう。いずれも、これからの産業や経済、社会を大きく変える中核技術と目されています。そうした中、12月半ばに「AI・ロボット・IoEが変える2030年の日本と世界」と題した興味深い技術レポートを、三菱総合研究所が発表しました。

 そこでは、21世紀に起こると想定される第4次産業革命での重要な構成要素として、AI、ロボット、IoEを採り上げ、2030年を見通した将来シナリオを描き出しています。設定年を2030年としたことについて、レポート作成で中心的な役割を果たした政策・経済研究センター主席研究員の白戸智さんは、「第4次産業革命は一過性ではなく、2030年ごろまで続くムーブメントとみられるため」と説明しています。

 ちなみにIoE(インターネット・オブ・エブリシング)は、IoTの概念を拡張し、全てのモノだけでなく、人間などの生体や空間・環境に至るまで無数のセンサーでデータを収集し、有効活用する考え方を言います。

 このレポートでは、AI・ロボット・IoEの有機的な連携で、労働の代替による効率化などが期待され、GDPを押し上げるとしています。中でも面白いと思われるのが、新産業創出の部分。例えば、人間の人生全体をデジタル技術で記録する「ライフログ産業」といった新しい産業が登場するとみています。

 現在でも、スマートウオッチなど常時身につけるウエアラブル機器の普及によって、運動や買い物、他人とのコミュニケーションといった個人の日々の活動を全て記録するライフログが可能となっています。

 それをさらに進化させ、単なる企業のマーケティング用としてだけでなく、個人のライフログに基づくAIパートナー、コンシェルジュ(客の要望に応じて案内や紹介、サービスの手配を行う人)、健康管理といったきめ細かいサービスを提供したり、極端な例だと、亡くなった人を仮想空間上に再現したりすることも可能になると言います。さらに、こうしたライフログ産業は2030年ごろには、個人にとって携帯電話サービスと同程度かそれ以上に必須なサービスになるとも予想しています。

 ほかにも我々の生活空間の3次元データ取得により、現実空間と仮想空間にまたがるイベントなどを提供する「VR産業」から、仮想旅行などでより深い体験を味わうことのできる「深現実レジャー産業」、人と機械の融合で人間の能力を拡張する「超人化産業」、センサーによる常時監視やAIなどでこれまで以上にセキュリティーを強化し、前出のライフログをはじめとする個人情報や仮想空間、IoEの脆弱性などまでサポートする「総合セキュリティー産業」といった産業が登場し、雇用の担い手になるということです。

 もちろん、懸念がないわけではありません。「明らかにプライバシーはなくなる」と先端技術研究センター長の比屋根(ひやね)一雄さんは断言します。「社会にとってリスクか進歩か、と見方は別れるかもしれないが、一定のプライバシーを差し出さないとサービスを受けられない時代になる」。セキュリティーについても、サイバー空間での攻撃と防御では一般的に攻撃側が有利とされるため、自己学習するAIセキュリティーソフトなどの開発が焦点となります。

 一方で、想定が2030年とはいえ、スピードも大事。新産業のあり方を日本の産官学でじっくり検討している間に、シリコンバレーあたりの大手IT企業やスタートアップがプラットフォームを握ろうとする動きも当然出てくるでしょう。

 日本の企業や社会は、自ら変化することが必ずしも得意ではない。そうしたこともあり、「新産業作りに向けた教育や制度改革の具体的な仕組みについても提言していく」と白戸さんは言葉に力を込めます。
(文=藤元正)
 
日刊工業新聞電子版2016年12月26日
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
未来をじっと待っていても、新しい産業を生み出せるわけではありません。第4次産業「革命」という来るべき大波に対応すべく、いかに先を見据えて主体的に動くかが、より問われることになりそうです。

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