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言語聴覚士からメディエーターまで。医療は未だにマニュファクチャーの時代

低い効率性の中で、いかに患者中心という職業観を共有できるか
 医師をはじめとして、病院で働いている専門職を皆さんはどれだけご存知でしょうか。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士はご存知かと思います。

 リハビリテーション病院に通ったことがある方は、理学療法士、作業療法士はお分かりでしょうが、言語聴覚士はどうでしょう。診療放射線技師、臨床検査技師は、長い正式名称がついています。

 おそらく臨床工学技士、視能訓練士は聞いたことがないかもしれません。看護師と言っても、保健師、助産師という看護師の専門職種もあります。福祉系の国家資格として社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士などが挙げられます。

 言語聴覚士や臨床工学士などはいったい何の専門職種なのか分からないのではないでしょうか。専門医や専門看護師などの国家資格ではなく、学会などが認定している資格を含めると、私たちも把握していない資格を取得している職員もいます。

 事務系では、医療秘書や診療情報管理士などが挙げられます。こうした職種の数だけ多様な機能を持っているのが病院と言えます。

 一般に病床数約200床の救急病院では、常勤職員が350人いて、非常勤職員も150人くらいいます。よく医療や病院は生産性が低いと言われますが、1人の入院患者に対し約1・5倍もの人間労働力を傾けて、公定のそれなりの対価しかないのですから効率性が高いわけがありません。

 生産性で言えば、医療は未(いま)だにマニュファクチャーの時代にいるといっていいでしょう。

 先述した約200床の救急病院の最大勢力は看護部で、150人の看護師をはじめ、助手たちを含め約200人にのぼります。事務部50―60人で、医師は20―30人ですから、いかに看護部の力が強いかお分かりになるかと思います。

 病院は病床の機能と規模で、人員要件が決まっています。例えば、看護師と患者の比率で入院料が決まり、看護師は勤務時間もきっちり決められています。最大勢力でかつ医療法で守られている看護部が、大きな力を持っているか想像頂けると思います。

 専門職が多くてガバナンス(統治)の難しさはありますが、患者中心という気持ちで、多くの専門職員たちが心を一つにして働いているのが病院です。

 最近では、メディエーターやカウンセラーなど新職種が求められてきました。今後もニーズに合わせていけば、病院は人が増え、一段と生産性が落ちてしまうかもしれません。それでも頑張るしかありません。
(文=猪口正孝・医療法人社団直和会 社会医療法人社団正志会理事長)

<関連記事>
病院運営で弊害になりつつある「専門職」の医師や看護師たち
日刊工業新聞2016年7月8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
以前に別の医師の方が専門職の弊害を指摘している(関連記事参照)。医療の世界は一般企業よりも特殊。「先生」と呼ばれる職業は専門性のほかに、いかに人としての引き出しを多さを持っているかが重要だと思います。

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