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IT各社「心の健康管理」はおまかせ下さい!ストレスチェックの義務化でサービス続々

自律神経を測定、疲労3段階評価。対話形式、ツールが“励まし”へ
 「こころ」の健康を診断します―。労働安全衛生法(安衛法)が改正され、12月から従業員50人以上の事業者に対して、従業員へのストレスチェックが義務化される。検査した結果は従業者に通知し、本人の希望に応じて医師が面接する。その結果により、企業は作業転換や労働時間短縮などの措置を講じなければならない。ストレスチェックの診断サービスは、これまで主にコンサルティング会社や人材派遣業者が大手企業向けに提供してきた。法改正で適用対象が中堅・中小企業にも広がる中、IT各社がメンタルヘルスケア(心の健康管理)で攻勢に出る。

  《12月から中堅・中小も》
 「疲労」とは体が発する「休め」というサインであり、放置すると「慢性疲労」となり、身体や心の病気の原因にもなりかねない。その疲労の元となっているのが、ストレスと言われている。だが、ストレスも疲労も表面上はなかなか判断が難しい。また、ストレスの検診は問診によるものがほとんどで、曖昧な回答や実態と異なる回答をしたりすると適切な診断結果が出せない。

 大手と比べ少数精鋭で経営を切り盛りする中堅・中小にとって、従業員の健康管理は受注活動や人材戦略などに直結する重要課題。だからこそ情報通信技術(ICT)を活用して中堅・中小を支援するIT各社のビジネスチャンスもある。

 《自律神経を測定、疲労3段階評価》
 目に見えない疲労やストレスを見つけ出し、心身が悲鳴を上げてしまうのを未然に防ぐために、日立システムズは疲労科学研究所(大阪市淀川区)と協業して「疲労・ストレス検診システム」を開発した。同システムは疲労科学研究所の自律神経測定器と日立システムズのクラウドサービスで構成する。

 自分の意思とは無関係に体の機能を調整している「自律神経」は疲労に大きな影響を与えている。その状態を測定することで疲労を客観的に評価する仕組みだ。

 測定方法は受診者が測定器に左右の人さし指を入れると、2―3分で心電波と脈波を同時に計測する。そのデータは測定器に接続したパソコンからネットワーク経由で日立システムズのデータセンター(DC)に送られ、データを分析し瞬時に結果を返す。結果は自律神経機能年齢(自律神経の強さ)や心拍変動、交感・副交感神経のバランスが数値やグラフで表示される。「正常」「注意」「要注意」の3段階で評価される。

 この結果を基にうつ病など“心の病”の早期発見につなげたり、ストレス緩和策の効果を測定したりできる。また、企業は心の病が治癒した社員が復職する判断材料にも利用できる。

 現在、約300台の販売実績がある。幅広い分野から引き合いがあり、地方自治体や医療機関、大学の研究機関のほか、「『疲労回復』をうたう飲料などを提供するメーカーなどが、その効果を検証するために導入する」(社会インフラ事業グループ)という事例もある。

 《人事・労務の業務効率化》
 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は従業員700人以下の中堅・中小向けに、従業員の健康管理を総合的に支援するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを始めた。BPOサービスは企業内の業務を切り出し、専門の知見やノウハウを持った企業が受託するサービス。伊藤忠商事の子会社であるウェルネス・コミュニケーションズ(東京都港区)が展開する大企業向け健康管理支援サービスをアレンジした。人事・労務部門の担当者にとっては、時間と手間のかかる業務を効率化できる。
 
 CTCの新サービスはストレスチェック対策、定期健康診断管理業務、長時間労働に対する労務管理の適正化を含めた三つの業務を一元管理する。CTCが人事・労務部門の担当者に代わって、従業員の心と体の健康管理業務を実施する。

 企業から提出された社員の基本情報、健診結果、残業時間の各データは、法令で定められている期間、安全に保管し、年末に報告用データを集計して報告書の作成を支援する。また、従業員への定期健診受診案内や未受診者へのフォローなども行い、その進捗(しんちょく)状況を人事・労務部門の担当者に提供する。
 
 《体調不良を未然に防ぐ》
 中堅・中小を中心に97万社の顧客基盤を抱える大塚商会。同社は企業向けメンタルヘルスケアシステム「労務環境改善システム」を1月に発売した。対象とする業種は多種多様。顧客には医師や看護師を含めて数百人規模の従業員を抱える病院もある。

 患者から見れば病院は心身ともに健康にしてくれる「安心・安全の象徴」ともいえる。だが、職場としてみると、病院特有の勤務体系からくる体力的な疲労に加え、人の命を預かる責務ゆえに心の負担が大きい。

 大塚商会に相談を持ちかけた病院では、定期的なストレスチェックや体調を崩した従業員へのケアなども実施していたが、心身ともに疲労を申告する従業員が減るような状況ではなかった。そこで、病院の理事長が抜本的な解決に向けて同社に相談。「従業員のリスクを軽減するには予防段階の早期対応が最重要である」との認識で一致。大塚商会の労務環境改善システムを採用した。

 このシステムは職場環境の変化を把握する同社の「人事給与システム」と、過重な勤務を抑える効果で実績を持つ日通システム(名古屋市中区)の「就業管理システム」を統合。さらに従業員の体調不良を未然に防ぐチェック機能を追加した。

 残業や休日労働時間、遅刻や欠勤、人事異動などの近況変化を常時分析し、潜在的なリスクを検知した予防対象者に対してはストレスチェックや面談を自動的に指示する。専門家によるストレス度判定が出力され傾向や対策を示す。同院では採用から数カ月で、具体的な改善効果が見られているという。

 《対話形式、ツールが“励まし”》
 NECソリューションイノベータ(東京都江東区)も改正安衛法の施行を見据えて「メンタルヘルスケアサービス」を拡充し、セルフケア機能を追加した。同機能は心のケアで効果的とされる「認知行動療法(CBT)」を基に、認知行動療法研修開発センター(東京都新宿区)の大野裕理事長とCBTツールを共同開発した。ツールからの問いかけに対して、従業員が解決したい問題を入力するといった対話形式が特徴。ツール自体が励ましなどの言葉を交えて、問いかけを重ねることで心のケアを支援する。

 NECソリューションイノベータは14年10月に、従業員数50人以上の会社を対象にメンタルヘルスケアに関する調査を実施した。これによると、ストレスチェック義務化の詳しい内容まで知っていると答えた企業はわずか14・3%。現在ストレスチェックを実施している企業も15・0%と対策が進んでいない実態が浮き彫りとなった。

 メンタルヘルスの指導ができる社内の専門スタッフについて聞いたところ、全体で26・2%が「いる」と回答。従業員数で比較すると、1000人以上の会社でも47・7%と約半数にとどまった。50―99人の会社は12・3%と、かなり少ない結果が出た。

 《トータルにサポート》
 富士通グループ3社は診断・教育・改善支援を組み合わせたセット商品で、中堅・中小のストレスチェック義務化の支援に乗り出している。富士通マーケティング(東京都港区)と富士通ソフトウェアテクノロジーズ(横浜市港北区)、富士通エフ・オー・エム(東京都港区)が連携し、クラウドを中心としたソリューション「メンタルヘルスソリューション」を提供している。

 メンタルヘルスソリューションは職業性ストレス簡易診断システム「e診断@心の健康」に加え、メンタルヘルス対策の導入計画から教育、改善運用までを網羅したサービスを体系化した。チェックシートによる分析に留まらず、結果分析から改善提案など実施後までをフォローアップするのが特徴。e診断@心の健康の導入前後の教育や改善・運用支援を組み合わせた「はじめてのメンタルヘルスプラン(教育・改善支援ベーシックセット)」により、導入推進担当者による前向きなメンタルヘルス対策を支援する。
日刊工業新聞2015年05月05日電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
この分野は本当にITが有効活用できる。誰とも接したくない、話したく人にとっては有用なツール。一方で、最後は人と人とのコミュニケーションが重要になる場合も多い。今後、ロボットなども普及してソリューションが出てくるだろう。どこまで役割分担するか。個人情報の保護も課題だ。

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